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ウイグルとトルコ世界 – 文明という破壊力

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中国の弾圧からなぜかウイグルについて勉強している。ウイグル人とは新疆ウイグル自治区に居住するイスラム教を受容したトルコ系の言語を話す人たちである。人口は1000万人。ただ、ウイグルとかトルコという概念を調べていると日本とは全く考え方が違うことに驚かされる。我々は異なる文明を正しく理解することはできない。そしておそらくそれが今回の悲劇の要因になっている。

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まずトルコだが、もともとは東洋系の顔をしていた人たちをトゥルクといっており東洋系の顔をしていない(つまり純粋でない)人たちをトゥルクマーンと言っていたらしい。もともとはオグズと呼ばれる民族集団だったという解説を見つけた。もともとは東洋系だったがコーカソイド系の人たちも多く含まれているらしい。我々が今見ている一番近いのは「アメリカ人」という括りである。英語を話すが白人も黒人も東洋人もいる。ただ、トルコ系には国という括りがない。

オグズの人たちは一旦ペルシャに従ってそこでイスラム教に改宗する。

ウイグルの地域(東トルキスタンとも新疆とも)に住んでいたトルコ系の人たちはウズベグ人と同じ系列の言葉を話すが、ウズベグはセルジューク朝の支配下にあった。セルジューク朝は今のトルコ・ペルシャ・中央アジアに広がる大きな国である。セルジュク・トルコなどと習った記憶があるのだが広く使われていたのはペルシャ語だそうである。

一方でウイグルの人たちはジュンガルの支配を受ける。文字が示すようにモンゴル系だそうである。ジュンガルは満州人(女真族)の清に滅ぼされた。清は女真族の国だがモンゴルも清に服属していたようである。清が消滅すると漢民族が中心の中華民国ができやがて中華人民共和国に代わった。

ウイグルとウズベグは同じような言葉を話すそうだが、昔から国家領域としては別になっている。これを東トルキスンタン・西トルキスタンなどと言ったりするようだ。もともとペルシャ世界でありのちにロシアに支配される地域と、中国の領域にわかれている。清は中国といっても満州人(女真族)・モンゴル人・漢人などの連合体だからやはり世界帝国である。おそらく中央アジアから中国にかけては「人種・民族によらない帝国」というものがあり、言語や宗教などの様々な共通点を持った緩やかなつながりがあったのだろう。ヨーロッパ人が書く歴史にも出てこないし、おそらく漢人にもよくわからない世界である。

よくウイグル人に対する中華人民共和国の弾圧は「民族浄化」と言われる。確かにそう思える。中華人民共和国はウイグル人の墓を破壊してつながりをわからなくするという歴史改竄をやっているようで「土地と人々の繋がり」を絶とうとしているようにも思える。だが、その「消されるべき民族」という意識がそもそも中央アジアには希薄である。ヨーロッパ人が作って中国人が輸入した「民族国家」という概念にこの地域を無理やりあてはめているだけなのである。

調べ物の動機として「なぜ中国西域にイスラムが残ったのだろう」ということが知りたかった。モンゴルが支配していたのなら仏教化してもよさそうだしイスラム教が進展しているのなら他のイスラム教国からの支援があってもよさそうである。しかし、彼らにはそもそも「民族」というまとまった意識はなく、同じ盆地に住んでいる「土地の人」と「よその土地の人」と「異教徒」という意識しかないようである。

ところが強烈な民族意識とおそらく西側に対する被害者感情を持っている漢人が乗り込んできて彼らを弾圧したために問題が複雑になっている。ウイグル人もまた対抗策として「民族意識」というものを形成しつつあるわけだ。

おそらく相互理解は不可能だろうが、にもかかわらず単一の国家を形成しようとしている。だから、中国共産党の試みは失敗するだろうなと思う。中国共産党の悲劇性は自分たちの秩序を資本主義社会の香港と民族意識や国家意識が希薄な中央アジアに広げられなかたという点にあるのだろう。

そう考えながら、ウイグル人弾圧についての文章を読むとまた違った感情が得られる。

11月16日付の米ニューヨーク・タイムズ電子版は、中国の新疆ウイグル自治区で大勢のイスラム教徒(主にウイグル人)が中国共産党の「再教育」キャンプに強制収容されている問題について、弾圧の実態が記された共産党の内部文書を入手したと報じた。それによれば、習近平国家主席はイスラム過激主義について、「ウイルス」と同じようなもので「痛みを伴う積極的な治療」でしか治せないと考えているということだ。

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中央アジア的な「自分たちは自分たちである」というあり方と、中国人が考える「自分たちの秩序の外にあるものは危険なので干渉地域をおかなければならない」という思想は折り合いそうにもない。となると中央アジア性というのはウイルスではなく本質である。ゆえにこれを消し去ることはできない。それでも無理をしてやっているとついには暴走して外国の介入を招くことになるのである。

我々はつい「イスラム」と括ってしまいたくなるのだが、アラブ的なイスラムとは全く異質な感じがする。中央アジア人はアイデンティティの拠り所としてイスラム教は利用するのだがおそらくそれ以上のものではないのではないかと思える。

我々は異質な文明を理解するためには恐ろしく貧弱な道具でてしか持っていない。中国は理解できないものを取り込んだということはおそらくわかっているのだがそれが何なのかを理解できない。だから「体制破壊のテロ」という名目で処理しようとしているようだ。一方、ウイグルの人たちもおそらく自分たちが何者なのかということはうまく説明できないのではないか。異質な文化を取り込むことによって自らが変わらなければならないとしたら、その破壊力はおそらくテロと同じことになるだろう。

中国政府は、宗教と過激主義がテロの脅威に結び付くことが実際にあることを利用して、大勢の無関係の人々の身柄拘束を巧妙に正当化している。テロ対策の専門家であるコリン・クラークは8月にスレート誌への寄稿の中で、中国がアメリカの「対テロ戦争」という言葉を都合よく取り入れて、独裁体制を正当化しているようだと指摘していた。

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「文化」というのは恐ろしいものである。我々は自分たちの文化をおそらくきちんと他者に説明することはできないし、相手の文化を受け入れることも難しい。その断層では必ず何かが起こるだろう。

おそらくこうしたことを見ると「文明の衝突」を思い出す人もいるのではないだろうか。ハンティントンなら何と考えるのだろうかと思って検索しようとしてふと気がついた。サミュエル・ハンティントンはすでに亡くなっているのである。ハンティントンはイスラム世界を一つに分類しているのだが、おそらくは中央アジアとアラブ世界は全く異なる。やはりハンティントンならどう分析したのかが知りたいがその望みが叶うことはないだろう。

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