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ウイグル人を救いたいのか自分たちのために利用したいのか – イギリス政府のウィグル介入

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Quoraの政治系の人たちが大好きな話題がいくつかあるのだが「中華人民共和国が人権弾圧をやっている」というのもそのうちの一つである。政治系のスペースでは長い間「中国はこんなひどいことをやっているのに取り上げないのは独裁ではないか!」という投稿が続いていた。

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ところがこのニュースに大きな展開があった。BBCなどの大手のメディアが伝えたのである。中国政府、ウイグル人を収容所で「洗脳」 公文書が流出というタイトルが付いている。この記事によると中国政府はかなり組織的にウイグル人の同化政策を行っているらしい。さらに重ねて「中国はウイグルに監視団を受け入れるべきである」というイギリスの申し出が報道された。これでウイグル問題の解決はより難しくなったのだろうなあと思った。

ウイグルというのは中国の西側に住んでいるトルコ系の言語を話す人たちの総称である。モンゴロイド系の人たちやトルコ系の言葉を話すようになったイラン系の人たちを含む概念で人種的背景が異なった人たちを含んでいるようである。この地域がモンゴル系に支配された時にモンゴル化しなかった人たちというような緩やかなまとまりであり、必ずしも日本人が考えるような民族集団ではなさそうだ。言語的にはウズベグ語と近いそうだが、ウズベグ人にもモンゴロイド系の顔の人とコーカソイド系の顔の人たちもいる。あの地域にはそういうイスラム教徒が多く暮らしている。

政府の指示に従って「手先」になる人たちが冷酷になってゆくというのは、ヨーロッパのユダヤ人迫害にもよく見られた現象だ。万能感を抱く人が大勢いるのだろう。だが背景にあるのはある種の被害者意識のようである。中国側の言い分はこんな感じである。

「西側には、そうした事実を完全に無視して新疆について中国を熱心に中傷している人々がいる。彼らは、中国の国内問題に介入し、新疆における中国のテロ対策を妨げ、中国の順調な発展を妨害する口実を作ろうとしている」

「中国はウイグル自治区に国連監視団受け入れよ」 英が要求

もともとイギリスは貿易のために清に言いがかりをつけて香港を奪った歴史があり、さらにチベット人の保護国(ブータン)を作ってインドとの緩衝地帯を作っている。いわばかつての当事者である。EU離脱に揺れる中外に目を向けたいという政府の思惑もあることだろう。これが中国の反発を招くのは必至だ。

とはいえ、このBBCの記事を読むと中国政府がいかに残酷なことをやっているのかということもよくわかる。あまりにもナチスドイツのやり方と酷似しているのでヨーロッパ人がこれを受け入れることはないだろう。本来の優先順位はまずウイグル人を救うことだが、大国の思惑が優先され彼らの事情は結局後回しになってしまう。国を持たないクルド人などと同じような運命をたどりつつあることになる。

当事者救出を第一に置くのであれば「主体」と「行為」を分けて考えなければならない。「中国が悪い」「イギリスもひどい」ではいつまでたっても問題は解決しない。日本もヨーロッパの移民問題には過敏に反応していて入管ではかなり非人道的なことが行われているようなので「罪のない国だけが石を投げろ」といっても、そんな国はない。ゆえに本来は「人権蹂躙行為」が問題なのであって「中国政府の良し悪しは問わない」とすべきだろう。だが、そうはならない。

中国は民主主義国ではないので選挙などの民主的な動きで住民を説得することはできそうにない。香港のような狭い領域ですら混乱しているのだから、ウイグルに自治と民主主義を認めるということはできそういにない。共産主義者には「住民の良心に託して国を運営してもらう」というような概念自体が理解不能だろう。

一旦弾圧に手を染めてしまえばもう行き着くところまで行くしかないという絶望的な状況があるように思える。ついには国内問題ではなくなり西洋諸国が知るところになった。これは日本が拡大する過程で周縁を巻き込んで行きやがてコントロールを失っていった状況によく似ている。つまり、一旦手をつけたことは「周囲とぶつかって破綻するまで続く」ということである。日本の場合は第二次世界大戦の敗戦と国の灰燼化だったのだが、中国がどうなるかはわからない。

BBCはこれを国際的なジャーナリストの集まりであるICIJから得ているようだ。ICIJには共同通信と朝日新聞も協力関係にある。国際的に不正を暴いて行こうという行為はリベラルだと見なされる。日本だけでなくいろいろな地域で「リベラルは反体制的である」という反発がある。中にはインテリ層への反発から反リベラルに傾く人も多い。

スペースでは「中国に親和的な共同通信がこれを取り上げたのは驚いた」というコメントがあった。リベラル=反日=親中国という図式ができているのだろう。共同通信は最近反安倍政権で割と無理筋な記事も出しているのでなんとなく言いたいことはわかるのだが、中国が関連すると冷静な判断ができない人が増えていることがわかる。

ICIJはパナマ文書をめぐる調査報道も行っている。大物政治家も絡んでいると言われたが、ところがこれをみて「資本主義の転覆を図ろうとしている」と思った人はいないはずである。ところが中国になると、中国政府の不正=中国の負け=崩壊という図式が作られてしまうのである

中国と旧西側先進国はライバル関係にあり、この状況が国際政治に利用されるのもまた明白である。イギリスの場合はおそらく国内政治の矛盾を外に向けるためにも使われるのだろう。結果的にウイグル人をどうやって救出するのかという議論にはならず、彼らの人権は放置されてしまうのである。

それがわかってもなお我々は「誰が正しくて誰が悪い」という議論から抜けられないのだ。

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