野党が望んでいる予算委員会を拒み続け、選挙の目玉だったスーパーシティ法案を流してまで争点隠しをしている安倍政権なのだが、思わぬ不確定要素が出てきた。「年金が減らされるかもしれない」というニュースが出たのだ。
まず金融庁が「老後には2000万円が必要だ」という報告書を出し、それを麻生副総理が得意げに記者に語った。麻生さんは火消しを図ったが不安がくすぶっているようだ。ところがこれに重ねてNHKが「年金支給水準が下がるが結果を隠して参議院選挙をやるらしい」というニュースを流してしまった。
この一連のニュースがどう投票に影響するかはわからない。もし高齢者が今の暮らしに余裕を感じていれば「ああ、時代は投資なんだな」と考えて自己防衛のために資産を投資に移すだろう。だが、「今更投資などと言われても困る」となれば自民党の政治に不安を覚えることになるはずだ。このどちらに転ぶかは選挙をやってみないとわからない。
高齢者たちが安倍政権を支持してきたのは「年金は100年安心だが民主党に任せていたらなにをされるかわからない」と思っているからである。これが崩れた時、自民党は支持されなくなるだろう。だが、よほどの事態が起こるまでは正常性バイアスが働くのではないかと思われる。
いずれにせよ高齢者が頼みにしているNHKは「物価が上がるし年金が下がる」というニュースを流している。ここで具体的な行動に出られる人やもう投資に資金を回している人は安心だが、そうでない人は不安を怒りに変えるはずだ。
それでも自民党が実効性のある成長戦略を出してくれれば問題は解決するはずである。具体的には「スーパーシティ」という新しいワードが出て、そして消えていった。記事を読むと加計学園問題でケチがついた戦略特区の「衣替え」を図ったことがわかる。包み紙を変えればまた使えるかもしれないというわけだ。なんだか日本人が好きそうな強そうな単語が羅列されている。
政府は7日、人工知能(AI)やビッグデータなどを活用した都市「スーパーシティ」を実現する国家戦略特区法改正案を閣議決定した。車の自動運転やキャッシュレス決済、遠隔医療などを一体的に取り入れたまちづくりを目指す。
スーパーシティ法案を閣議決定 規制緩和、首相が省庁に要請
選挙には手土産が必要である。自民党は「地方への手土産」としてこのスーパーシティ法案を考えていたのだろう。これがどうなるかはわからないがとにかく自民党議員が選出された選挙区でないと「選考すらしてもらえませんよ」と言えば良い。「野党に入れたらどうなるかわかっているんですね?」というだけで十分なのである。
中身がないうえに加計学園の問題を蒸し返されかねないので、後半ギリギリに閣議決定したのだが「審議時間が足りないから延長も」ということになった。予算委員会を開かないのにこの法案だけ通してくださいなどという虫のいいことができるわけはない。公明党はさほどこだわっていなかったことから、自民党が「選挙のためならなんでもあり」という状態になっているのがわかる。
日経新聞が全文を掲載している自民党の選挙公約には、なぜか外交・安全保障が最初になっており、三番目に経済が来ている。一方で、自民党の候補者たちが気にしているであろう地方への分配には具体性がない。唯一具体的な提案は地方に戻ってきた学生に300万円支給するという案と人出不足を解消するために外国人を導入するという話だけである。あとは人工知能やビッグデータという言葉で「地方がなんだかすごいことになるかもしれない」という幻想を振りまいている。
なんだかめちゃくちゃな選挙準備だが、それでも有権者は自民党を応援するんだろうなあと思う。もうこうなると「これくらいが今の国民にはふさわしい政党なんでしょうね」くらいのことしか言えなくなる。高齢者にとってみれば今の日本が成長しないのは若者がだらしないからだし、自分たちの生活が続けられるならそれでもかまわないわけだ。