鈴木法務大臣が「早ければ2040年には人口の10%が外国人になりますよ」との見通しを示した。当初予想より30年ほど前倒しになるそうだ。参議院選挙で外国人排斥傾向が出たにも関わらず「いい度胸だな」と思ったのだが、いくら考えてみても一体何が問題でどうするのがよいのかがさっぱりわからない。
鈴木法務大臣が記者クラブで「2040年に日本における外国人の割合が10%程度になる」との見通しを示した。近く推計を発表するのだそうだ。
時事通信のこの記事は色々と問題がある。2023年には10%を超えるのは2070年代であるとされていたそうだがなぜこれが30年ほど前倒しになったのかがさっぱりわからない。またこれは欧米諸国並みとしているがそもそも国境が開かれているEUや非文書移民が多いアメリカ合衆国と比べられてもなあ……という気がする。
30年も前倒しになったのだとすると、将来の日本は外国人だらけになってしまうのだろうか?
当然記事に答えはない。
知事会は「国が制度設計すべきだ」と言っている。現在の法体系では国は外国人を入れるだけで後の管理は地方自治体に丸投げにしてきた。ただし外国人を入れるなとは言っていない。地方で深刻化する人材不足の解消に向け、国が主体となって外国人受け入れの環境整備へ制度設計を進めるよう要望している。
この地方の丸投げの姿勢はガソリン税制にも現れている。自民党・公明党が選挙で負けてしまったためにガソリン税率は11月にも改定される見通しなのだが5000億円ほどの収入減になるために知事会は「代替財源を確保しろ」と言っている。
知事会は雛鳥よろしく口を開けて親鳥の運んでくれる餌を待っている。日本の政治が「分配」を当然の基礎としていることがよく分かる。関税問題はこの入口の崩壊問題だが、日本の基礎構造はまだここから脱却すべきだという議論になっていない。
そもそも生活者は「自分たちの生活が苦しいから消費税やガソリン税は払えない」と考えておりこれが自民党離れにつながっている。つまりここで5000億円ほど収入が減少したからと言って代替財源を確保してしまうと(国債以外では)生活者の不満は解消されないだろう。
選挙で負けたのは有権者の間に外国人排斥欲求が高まったからだと考えるとこの問題は自民党にとって地雷である。鈴木法務大臣は一体何を考えているのだろうか。情報発信に工夫が全く見られない。
そもそもなぜ30年ほど「計画」前倒しになったのかがよくわからない。記事は外国人増加を労働者問題と結びつけているが在留中国人の増加は労働力補強とは関係がない。政府は日本人を騙して外国人を増やそうとしているのだろうか。それとも中国の経済事情が激変した結果日本に想定よりも多くの人が流れてきたのか。
さらに、参政党が中心になったとされる「外国人排斥」の実態もよくわからない。参政党の主張のコアは「日本人が顧みられていない」というもの。ところが日本人は「自分たちを優遇しろ」とは言いたくないため、なにか比較対象を持ち出すことが多い。文字通り議論が屈折しているのである。
例えば左派リベラルに人気がないのは「左派は貧乏人にばかり注目している」と考えているからだ。日本人は本音では「自分たちのことをもっと褒めてほしい」と考えている。
同じように外国人排斥も「本当は自分たちのことをもっと褒めてほしいのに褒めてもらえない」不満の現れと考えることができる。このためそもそも外国人が観光客なのか、投資目的の中国人なのか、外国人労働者なのかがよくわからない。外国人は「日本人でないもの」の記号に過ぎない。
TBSの報道特集は盛んに参政党を攻撃している。外国人排斥が進めば日本は第二の戦前を迎えると言いたげである。しかし参政党党支持者たちの「外国人像」が極めて曖昧であるという点には触れていない。おそらくあまり興味がないのだろう。
安倍総理はこれをよく心得ており「民主党いじめ」と「支持者たちを認めて褒めること」が必ずセットになっていた。相対主義の日本人は相手を落として自分を褒めてくれる存在を渇望している。どうしていつも褒めてもらえないと不満がたまるのかはさっぱりわからないがとにかく日本人は褒めてもらい。大谷翔平選手が活躍すれば「同じ」日本人として誇らしい!などという。大谷翔平選手は大抵の日本人にとっては赤の他人だがそんなことはどうでもいいのだろう。
他人の気持ちがよくわからない石破政権はおそらく「日本人が褒めてもらいたがっている」とは気がついていない。
外国人の増加は当初の予定より増えるみたいですねえとまるで他人事のようなレポートを発表した。また鈴木法務大臣はトルコの大使に「不法残留者が増えているのでなんとかしてください」と陳情したそうだ。他人事他人任せであることがわかる。トルコの大使も「いやあそんなことを言われてもなあ」と思ったのではないだろうか。トルコ政府が日本で警察権を駆使して不法残留者を強制的に排除することなどできない。
問題意識のない政府・他人任せの知事会・問題を勝手に付け替えておかしな議論を展開する「自称保守」の間で日本の外国人政策は漂流している。
