この記事では日本の読者向けに総選挙を総括する。ハイライトは高市総理の戦略の勝利、政党破壊が2回目になる(これまでは前科一犯だった)野田佳彦氏の厚顔無恥ぶり、世代交代、維新の埋没などである。最後に国民が白紙委任状で「勝ち取った」ものについても論評する。
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高市総理の戦略的勝利
高市総理は思考停止の有権者に「考えない理由」を与えることで今回の地すべり的な勝利を勝ち取った。表向きの改革姿勢と背景にある思考停止の二重構造は英語圏向けの論評でまとめたのでここでは取り上げない。日本人に言語化は無理だろうし今更言語化しても手遅れで意味がない。
BBCはこのあたりを冷静に見ている。何も提示せず議論もしていないのだから有権者は何も選んでいない。むしろ選ばないことを選択した。
ただ、「大胆な政策」についての議論は深まらなかった。自民党と維新の連立政権発足直前に発表された連立合意書では、防衛力の抜本的強化、スパイ防止法の制定、憲法改正、国旗損壊罪の創設、外国人政策の厳格化などの政策が並んだ。だが選挙戦では、高市氏がこれらの政策を前面に出して有権者に訴えかける場面はほとんどなく、「責任ある積極財政」などに主張の力点を置いた。NHKの党首討論番組への参加も直前にキャンセルした。
自民が単独で300議席超を獲得へ、与党で3分の2超に 衆院選(BBC)
さらに消費税減税については「検討を加速」と繰り返し、責任をすべて国民会議に押し付けた。もう少数与党ではないので必要のない会議だ。また給付付き税額控除のアイディアを立憲民主党から横取りした。しかしながら「使う方」の経済成長パッケージは城内実氏に任せて自分たちが独占する。
これを狡(ずる)いと見るか賢いと見るかは人によって意見が分かれるかもしれない。
前科一犯の野田佳彦氏が再犯
鳩山家の財産で作られた民主党を壊滅に追い込んだ前科一犯の野田佳彦氏が再犯した。厚顔無恥にも自身は当選し、公明党の斉藤代表と石井啓一氏は比例で当選した。しかし創業者の枝野幸男氏を始め、馬淵澄夫氏、海江田万里氏、逢坂誠二氏、本庄和史氏、岡田克也氏、玄葉光一郎氏、江田憲司氏が落選している。小沢一郎氏も議席を落とした。安住淳氏も比例復活できなかった。
公明党出身者が党首になれば立憲民主党出身者が不満をつのらせることになるが「戦犯野田氏」以外の有力な選択肢がないという状況になっている。
なお、減税日本・ゆうこく連合の原口一博氏も落選している。河村たかし氏は議席を守った。
世代交代ぶりも明らかに
社会党は衆議院の議席を失う可能性が高く共産党も勢力を落とした。立憲民主党の凋落と合わせるとシルバー政党系が後退していると分かる。一方で現役層に強いとされるチームみらいが健闘。参政党も党首の期待程は伸びなかったが議席を増やしている。
チームみらいは「改憲」についても触れている。リベラルは激怒するかもしれないが、仕様書(憲法)に書かれていない機能が実装されているのだから「機能書にも書いておくべき」とエンジニア的に当たり前のことを言っている。やっとまともなことを言う政治家が出てきたという印象。
「自衛隊を戦力でないとする解釈はかなり難しい。憲法がリスペクトされる状況を害している」
9条見直し必要ではないかと安野氏(共同通信)
安全保障にも懸念があるが、実はそれほど大したことは言っていない
安野氏が「エンジニア的に真っ当なこと」を言っているとは言え、実際の憲法改正議論は感情と見込みに彩られている。小泉進次郎氏と萩生田光一氏が3分の2の議席を確保したことを念頭に憲法改正発言を行っている。一方で高市早苗総理も非核三原則と靖国神社参拝に踏み込んだ発言をしている。
いっけん「右傾化」が進みそうだが、注意深く聞いてみると靖国参拝については「周辺国の理解を求める」と言っている。韓国も中国もおそらく認めないだろうから事実上は断念したと見ていいだろう。消費税の検討を加速=やらないと同じ言い換えである。しかし断念したとは言わない。
日本の有権者が求めているのは昭和の安全保障の期間延長なのでパッチを当てるような作業は行われるだろうが、抜本的改革は否定される可能性が高い。
維新はキャスティングボートを喪失
維新はキャスティングボートを喪失した。一方で高市総理は閣僚と党幹部は変えないと言っているが、維新にも共同して国会での説明責任を果たしてゆくように求めている。吉村代表は代表選挙をやるなら出ないと言っている。これは責任を取ったと読み解くこともできるだろうが「オレなしでやって行けるのか?」という宣言とも受け取れる。大阪都構想は信認を得たと主張している。
国民が白紙委任状で「勝ち取った」もの
最後に国民が白紙委任状で勝ち取った戦利品を改めて確認してゆきたい。
古い自民党の「政治と金」の問題は禊と祓えを終えた。これで今まで通りの自民党に依存できる。有権者は心地良い思考停止を獲得した。これが最も大きな戦利品だ。
次に中途半端な経済改革を追認することで「円安」と「金利高」の両方を選んだ。高市総理の発言のあとで片山さつき財務大臣が市場を引き締める発言を行っている。マイルドな円安・インフレ水準を維持すれば政府の財政は軽くなる。国民負担が実質的に増えるからだ。しかし財務省のオブジェクティブは財政の「健全化(政府にとっての)」なので国債市場が崩れれば元も子もない。特に海外に逃がす資産を持たない国民は進んで困窮化を勝ち取ったことになる。
また安全保障はボラティリティが増す中ですべての資産を一銘柄の株式に賭けるような暴挙を選択。外れれば大惨事だが、国民は高市総理に白紙委任状を渡したのだから後は「どうぞ好きに運用してください」ということになる。後は失言女王になりつつある高市総理の「私失敗しないので」に賭けるしかない。高市氏の課題は情報管理だろう。これまでのように「外交安全保障についてはお話できない」という国会話法が通じなくなる。SNSでアメリカからの情報がダイレクトに入ってくるからだ。トランプ大統領の不規則発言はそもそも母国のアメリカで大問題になっている。高市総理の幸運を祈りたい。
また少子高齢化に対する解決策も提示されなかった。総理大臣は財源論は国民会議に丸投げする一方で「使う方」の経済成長議論は自分たちの身内で独占するが、選挙総括の中でこのことは語られないだろう。また現役世代の味方だった維新と国民民主党はキャスティングボートを失った。

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