令和世代は「正解をすぐに欲しがる」そうだ。そこで正解を先に書いておく。今の政治は誰も責任を取らないから正解を待っていると損をする。あとはやや複雑な説明である。
日銀と財務省がこっそりアベノミクス終了宣言を出した。すでに分かる人には伝わっており影響も織り込まれている。一方で国民への明確な説明は行われていない。説明を行えば責任の所在を明らかにしなければならなくなる。確かにリスク管理には成功したがその副作用として内部に２つの違った勢力が生まれてしまった。それぞれがまるで別々の頭を持った２つの頭のヘビのような状態になっている。
日本銀行が次の会合で中立金利を出さないことに決めた。TBS X BloombergのCross Digでは「中立金利を出してしまうとあと何回利上げをするのか」というヒントを出してしまうことになる為曖昧にせざるを得ないのではないかなどと言われていた。
現在の状況は、日銀か政府に円安によるインフレを容認するか金利が上昇する社会を許容するかという「選択」を迫るものになるはずだった。だが、日銀は将来の目標になる金利を明確にしないことでメッセージを伝えない道を選んだ。
これに合わせるように片山さつき財務大臣が「今道を間違えるとデフレに逆戻りする」と発言している。これはアベノミクスが約束していたような「日本がインフレに回帰すれば自ずと賃金上昇が付いてくる」というこれまでの説明（あるいは印象操作）から外れる動きである。
このことから
- 日銀はすでにアベノミクスが出口に差し掛かったと宣言しており
- 財務省は出口が必ずしもアベノミクスに対する従来の政府の説明（あるいは印象操作）と同じにならないかもしれないと示唆している
- 両者とも最終責任は明確にしないが、お互いに意思の疎通はとれていて、伝わるところには伝えるべきメッセージが伝わっている。
とわかる。
当初「最終的に政治が責任を取る」と豪語していた高市早苗総理はいつの間にか「日銀がうまくやってくれることを期待している」として観客席に移動してしまった。
なんだ結局誰も責任を取らないのか？と思う。
ただ金融市場にはメッセージが「正しく」伝わっている。
現在、アメリカのハイテク株に「調整」の動きが見られる。これはハイテクバブルの崩壊とまでは言えないが、これまでの新しいFRB議長に対する過度な期待をリセットする動きと推察できる。新しいFRB議長が必ずしもトランプ大統領の期待する超ハト派にならないかもしれない可能性が出てきた。トランプ大統領が超ハト派を主張すればするほどFRB議長はあの悪名高いバーンズ議長の二の舞いになるのではないかと警戒されているのだ。
パウエル議長はおそらく「第二のバーンズ」という不名誉な称号を避けるためにかなりの努力をしていたはずだ。次の議長も同じように振る舞う可能性がある。
このため「リセット」の一環として一部ハイテク株のポートフォリオを見直す動きがある。これに連動するかのように割安感があった日本の商社株が買われた。少なくとも「日本は再び成長軌道に乗った」とみなす投資家が増えていることを意味している。
アベノミクスの後継者として期待されている高市総理は「これからもアベノミクスの継続」を訴え続けなければならないし、それが必ずしもこれまで政治が説明（あるいは印象操作）してきた内容ではなかったと言い切ることもできない。
結果的に一般有権者・消費者は「今の物価高は異常事態であり政治がなんとかしてくれるだろう」と漠然と期待し続けるだろう。仮に「アベノミクスは自動的な成長など約束していない」し「現在はすでにそうなっている」などと言えば「エビデンスを示せ！」と詰め寄ってくる人もいるかも知れない。アベノミクス支持者たちは不安なのだ。
しかしおそらく我々はすでに新しい時代を生きている。むしろ新型コロナ禍の回復過程で起きたことが定着する可能性が高い。片山さつき財務大臣の説明はこのあたりが巧妙だ。つまり、賃金上昇なき物価高というこれまで我々が数年体験してきた現象がこれからも続く可能性が高い。つまり政治の失敗と言われかねないが「デフレの危険性」という将来のリスクに巧みに言い換えている。
しかしこうした曖昧さは別の懸念を引き起こしつつある。政府に方向性の違う２つの動きがある。例えるならば頭が２つあるヘビだが当然別々の方向に進むことはできない。
これまで見てきたように「日銀・財務省」は密かにアベノミクス退出を宣言し整合性のあるメッセージを金融市場に送っている。ある意味「逃げ」ではあるのだが、同時に政治的なリスクマネジメントであると積極的に評価することもできるだろう。今、我々の暮らしを守るためにも金融市場を混乱させるわけには行かない。
しかしながら高市総理は「積極財政派」に支えられた政権でもある。REUTERSが「マクロスコープ：政府の成長戦略会議、分科会でも積極財政派起用の動き 「城内氏中心に」」という記事で気になる状況を伝えている。
城内実氏を中心に「アベノミクスはこれからが本番だ」という勢力が活発に動いている。高市総理自身は「今は出口にある」とわかりつつ、彼らを止めることができていないのだ。つまり国民への説明以前に高市総理が抱え込んだ２つの異なる路線がまるで別々の生き物のようにそれぞれ別の方向に動き始めている。
ただ、ここにきて分科会メンバーの選定に政府内から懸念の声が出ている。内閣官房関係者は「城内氏が積極財政派の有識者を分科会メンバーに入れようと躍起になっている」と明かす。城内氏は高市内閣の中でも積極財政推進の急先鋒と言われる。「親会」の戦略会議の委員には、クレディ・アグリコル証券の会田卓司チーフエコノミストや元日銀審議委員でＰｗＣコンサルティング合同会社上席執行役員の片岡剛士チーフエコノミストら大胆な金融緩和と積極財政を提唱するリフレ派の論客が起用された経緯もある。
マクロスコープ：政府の成長戦略会議、分科会でも積極財政派起用の動き 「城内氏中心に」
一方、複数の政府関係者によると、高市氏自身は足元の金利や為替の動向に危機感を強めている。片山さつき財務相も同様で、財務省関係者は「政権発足時のように勢いよく財政を吹かせるべきだとの議論は聞かなくなった」と話す。こうした中での積極財政派起用の動きに、前出の内閣官房関係者は「メンバーは城内氏を中心に選定している。積極財政派の主張が最終的にどこまで実際の政策に影響するかは今後の議論次第だ」とも語った。
マクロスコープ：政府の成長戦略会議、分科会でも積極財政派起用の動き 「城内氏中心に」
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