習近平国家主席と会談した高市総理がAPECで撮影した台湾の代表と写真をアップした。中国は記者会見でこれに対して大いに反発している。保守派の人々は大喝采だろうが、ここでは全く別の視点から高市氏の動きについて評価してみたい。AIの登場により短い質問を繰りかえすことで戦略の評価ができるようになった。便利な時代になったものだ。手続きは簡単なのでぜひ皆さんにも試してほしい。
習近平国家主席は長期ゲームと短期ゲームを組み合わせて国益の最大化を図っている。高市政権はアメリカ合衆国に接近しすぎる懸念があるため会談に応じ長期ゲームへの引き込みを図った。
ところが中国国内的にはメッセージが整合しなくなってしまうため、日本が4文書を遵守する限りは互恵的戦略関係を結んでやるというメッセージングを行う必要があった。これは北京共産党政府の存続に関わる重要事項だ。
しかし高市早苗総理はわざわざ林信義氏と握手する写真をSNSで公開。
これについて聞かれた報道官は
報道官は、台湾側との面会を「大々的に騒ぎ立てており、『一つの中国』の原則への重大な違反だ」と主張した。
台湾巡り高市首相に抗議 中国(時事通信)
と言っている。
握手の写真を「騒ぎ立てる」と報道しているのだ。さすが漢詩の国という気がする。大げさだ。
ではこの動きは日本の国益にとってプラスなのだろうかマイナスなのだろうか。AI(ChatGPT)に聞いてみた。
政治のプロは「AIに政治を語らせるなんて」と嫌悪感を示すかもしれないが、実際にやっていることは前提条件と選択肢を与えて計算させているだけである。計算なので当然評価指標が必要になる。今回は国益の最大化を指標にした。
現在の国際情勢はトランプ大統領の1回きりゲーム指向、プーチン・ネタニヤフ両氏の存在ゲームなどで均衡が崩れかけていると理解しています。
こうした環境のもと高市総理は1)中国の要請に従って台湾を認めない、2)中国・台湾どちらとも付き合う、3)中国の要請を無視するという3つの選択肢があります。
日本の国益を最大化するうえでは1から3のどのアプローチが有効で、またそれが成り立つための条件はなんですか?
当然答えはどちらからも利益を引き出せる選択肢、つまり「どちらとも付き合う」になる。
ここまではあらかた予想ができる。短期ゲームに対応しつつ長期ゲームから利得を得るという戦略だ。
ChatGPTが提示したゲームが成り立つための条件は次のとおりだ。
- 実効的な抑止の確保(米日同盟の明確化+自衛力強化)
- 経済の耐性(サプライチェーン分散・企業保護)
- 邦人保護・危機対応の法整備と演習
- 明快で一貫したメッセージング(外交・国内向け)
- 地域連携と国際的支持の確保
背景にある問題意識は東西冷戦構造の破れである。戦後日本は自由主義のショーケースであることが期待されていたためアメリカ合衆国と長期的関係結んでいればよかった。つまり短期ゲームに対処する必要がなかった。しかし現在ではトランプ大統領のディールと習近平国家主席のアメリカ覇権への挑戦という2つの短期ゲームにさらされている。
独自で軍事ゲームに参加できない日本としては短期ゲームがもたらすリスクを管理しつつできるだけこれまで通り長期ゲームを通じて利得を得る必要があるということがわかる。
では高市政権の存続を望む人たちはどのようにこのゲームを支えれば良いのか。
このゲームのルールに従えば「短期ゲームには応じない姿勢(中国に対する強い態度)」を示しながら、なおかつ長期ゲームに戻る動きを「ブレた」などと邪魔しないことが求められる。中国もまた長期ゲームを必要としているという理解が必要だ。
いわゆる保守派と呼ばれる人たちが「大陸中国とは一切付き合うべきではない」にも関わらず高市総理が媚びたとみなせば結果的に高市総理の選択肢を縛ることになるであろうということになる。
ChatGPTは意外とバランスが取れており「自衛力を強化すべきである」と言っているが、個人的には「民主主義が崩れつつあるアメリカ合衆国に過度に依存すべきではない」と考えている。つまり今回の結論の前提条件の一つである日米同盟に対する依存には違和感を感じる。つまり「価値観」を全く入れないで結論を受け入れることに対しては若干抵抗感がある。
また、AIに人間の未来を決めさせてよいのか?と考える人もいるだろう。今回やったのは初期条件を入れて計算をさせているだけなので、意思決定をすべてAIに委ねているわけではないという点も改めて強調しておきたい。あくまでもAIは現代に現れた全知全能の神ではなく、ルールをクリアにして行動指針を得るための単なる道具に過ぎないのである。
あくまでも道具なのでこの結論を無批判で受け入れるべきだとは思わない。しかしながらルールを明確にし「今の自分たちの意思決定は正しいのだろうか」とチェックすることが悪いことだとは思わない。道具はできるだけ有効に使うべきだ。
