トランプ政権が「イランの発電施設」の攻撃を宣言した。トランプ政権がもはや国際法を重要視しなくなっていることがよくわかる。我々が依拠していた国際政治の前提は大きく変化した。仮に「これまでの前提」を正常な世界だったとすると、アメリカ合衆国が原因の狂った時代に入ったことになる。
ただ、これらについてChatGPTに質問をすると、ダラダラとアメリカの法廷闘争のような不毛な議論が返って来る。アメリカ人が作ったChatGPTもまたこの狂った価値観の一部なのだ。
国民生活をターゲットにした攻撃は戦時国際法違反である。今回のトランプ大統領の宣言は「アメリカ合衆国はもはや戦時国際法を気にしない」という宣言でもある。おそらくトランプ大統領の発想は「停電=体制転換」だろう。キューバの状態をイランに「直感的」に当てはめて、細かな違いは無視している。
そもそも「戦時国際法」はなぜ生まれたのか。イタリア統一戦線のソルフェリーノの戦い(1859年)の惨状を目の当たりにしたアンリ・デュナンが負傷者の保護と赤十字の創設を訴えた。この結果制定されたのが1864年のジュネーブ条約だ。
しかしこのジュネーブ条約は十分に機能せず第一次世界大戦と第二次世界大戦でヨーロッパの市民生活インフラが破壊された。この反省から再びジュネーブで会議が行われ1949年のジュネーヴ諸条約が結ばれる。背景にあった危機感は明白である。ヨーロッパのような逃げ場のない半島で主権国家同士が争えば共倒れになる。共倒れを防ぐためには明文化された規則が必要だった。
裏を返せば「逃げ場があるところであれば、戦時国際法などなくても構わない」という理屈は成り立つ。ところがこのゲームルールが変わりつつある。イランがディエゴ・ガルシア島を攻撃した。攻撃は失敗に終わり、さほど大きなニュースにならなかった。
ところが一日経って「実はイランが4000キロメートルも離れたところを攻撃できるとは誰も思っていなかった」と認識されるようになる。つまりアメリカ合衆国は安全圏だがヨーロッパは安全圏ではない可能性があるということだ。同じことが日本にも言える。日本はおそらく核兵器保有国である北朝鮮のミサイル圏内にある。
つまり、世界が一つの逃げ場のない地理的単位になりつつあるということになる。
また、代理戦争の可能性も広がりつつある。ロシアや中国は表向きはアメリカ合衆国とディールを続けるが、おそらく裏ではイランに情報を渡している。欧米はウクライナを支援しつつ「直接戦争には加担していない」という関係を作っていたが、イランが戦争に参加したことで、この間接戦争が相互開通した。
一方でパルシ氏は、イランに遠距離の目標を正確に攻撃できるだけの「目標情報」やミサイル精度があるかを疑問視する。
インド洋の米英共同基地へミサイル発射、イランの能力について分かったこと 欧州の基地も射程内に(CNN)
「ディエゴガルシア島そのものではなく、あの一帯はイランが自前の目標情報を生成できない部分が多い。つまるところ人工衛星などを通じた『目』をあの海域に持っていないからだ」「従って、そうした情報はロシアや中国から提供されている可能性が高い。これも今回の戦争において米政権の想定外だった要素の一つだろう」(パルシ氏)
「逃げ場がない世界」が構築されつつあるのは誰の目にも明らかだ。おそらくホワイトハウスでもそれに気がついている人は大勢いるだろう。しかし、最近のニュースを見ると「レポートを上に上げても無視される」「政治的に解釈されて終わりになる」という事例が報告されている。積み上げ型のインテリジェンスよりもトランプ大統領の直感が優先されてしまうのである。
国防総省内でここ数週間出回っている国防情報局(DIA)の内部評価では、イランはホルムズ海峡の封鎖を1カ月から6カ月継続する可能性があると判断しているという。文書の内容に詳しい情報筋4人がCNNに明らかにした。ただしホワイトハウスや国防総省の当局者は、この評価は真剣に受け止められておらず、特に一部で最悪のシナリオとの見方もある6カ月の時間枠については深刻視されていないと主張した。
ホルムズ海峡封鎖、米国は長期化阻止に躍起だが明確な策なし 「最悪6カ月」のシナリオも(CNN)
本来、世界情勢を語るうえでは「戦時国際法の適用の難しさ」を語るよりも「人類の生存に戦時国際法がどのような認識を持っているのか」が優先して議論されなければならない。しかし、アメリカ合衆国はディベート中心文化であり、相手の証明さえ許さなければ「自分たちが勝ち」であるという認識がある。
ChatGPTを開発したサム・アルトマン氏なども、このディベート偏重文化を嫌う「テック世代」の一人だが、実際に開発された商品であるChatGPTに戦時国際法に関する疑問をぶつけるとアメリカ合衆国の発電施設への攻撃は「国際法違反とはいいきれません」と法廷闘争を仕掛けてくる。一方で元々の戦時国際法の趣旨に関してはまるで無関心だ。アメリカのディベート文化が深くアメリカ合衆国を蝕んでいるのかがよくわかる。
相手の言い分を認めなければ勝ちという文化は連邦議会をも蝕んでいる。国土が広いアメリカ合衆国では飛行機を使った出張(ビジネストリップ)は生活の一部である。ところが、今アメリカ合衆国では空港に長い列ができている。民主党と共和党が妥協せずTSA職員に賃金が支払われていない。職員たちは給料を稼ぐために病欠してアルバイトをしているようだ。空港によっては30%の職員が休んでいるところもあるとABCニュースは伝えている。
トランプ大統領はTSA職員が働かないのならICE職員を代わりに導入すると宣言した。REUTERSは警告、ABCニュースは脅迫と表現した。
- Trump says he’s sending ICE agents to airports Monday amid DHS funding impasse(ABCニュース)
- トランプ氏、米空港にICE捜査官派遣と警告 予算巡る対立受け(REUTERS)
ICE職員は政策優先度が高いとされすでに給料が確保されている。実際には民主党州への攻撃道具として使われているが、ディベート文化が支配するアメリカ合衆国でそれを「証明」するのはほぼ不可能である。しかしICEの投入でアメリカ合衆国市民に犠牲者が出ておりICE職員を稼働させることは難しい。結果的に彼らは余剰人員化している。
国民生活を主語にすると「必要な職員への給料は支払われず、必要性が乏しい職員の給料が優先されている」ということになるのだが、トランプ政権を主語にするとこれが必ずしも成り立たなくなる。トランプ大統領にとって最も優先順位が高いのはイラン攻撃でありそのためには2,000万ドルの追加資金が必要とされている。
ICEエージェントは月曜日から導入されるようだ。専門知識を持った職員たちに給料は支払われず、外から入ってきたろくな知識は持たないが給料は保証されたICE職員たちに「手取り足取り」仕事のやり方を教えなければならない。TSA職員たちが「やってられない」と考えても当然だろう。
このディベート中心文化がもたらした混乱は世界のインフラが攻撃され、国民生活が成り立たなくなっても、論破できなければそのおかしさが「証明できない」という狂った世界への入口になっている。

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