このエントリーでは維新の考える拙速な定数削減提案がなぜ危険なのかを考える。維新は自らが改革政党であると訴えるために国会議員の定数削減を呼びかけている。ただし小選挙区公認権はプラチナチケット化しているため比例を削減したい。仮にこのような「改革」が実現すれば政治は分断され日本はより危険な状態に陥るだろう。
アメリカ合衆国の政治は人質政治に陥っている。小選挙区制のアメリカ合衆国では少ない選挙区の動向が政権与党を決めるうえに野党が政策を実現するためには予算全体を人質に取る必要がある。これは制度的なアメリカ政治の欠陥であると理解されている。
しかしながら制度だけでは人質政治は生まれない。ヒトは集団に分かれて対立する本能がある。
いったん宗派的党派対立主義(political sectarianism)が発生すると協力均衡(cooperative equilibrium)」が崩壊し、繰り返し囚人のジレンマに陥ちいることになる。集団的ジレンマのもとで全体利得は低減する。
さて、問題はここからだ。
フランスの政治もアメリカの政治と同じように小選挙区制だ。またフランスには対立型の政治文化があり対立が激化しやすい。しかしフランスの政治制度は毎回選挙を2回やっている。最初の選挙で候補者を絞り込みその結果を受けてまた決選投票をやる。結果的にアメリカ合衆国よりも穏健な(それでも混乱しているのだが)議会政治が行われている。
韓国も大部分が小選挙区制であり一院制を採用している。また地域対立が激しいため対決型の政治に陥りがちである。つい最近も議会を打倒しようとした大統領がクーデター未遂で弾劾されている。
これに比べて日本は制度も政治文化も穏健であり対立型政治に傾斜しにくいというのがChatGPTの見立てである。
しかし実際にQuoraでは若年層を中心に「問題解決よりも勝ち負けや序列にこだわる人」が増えている印象がある。高市総理も「強い日本が戻ってきた」というメッセージを発出し若年層の支持が広がっている。当然勝ち負けにこだわり相手を論破したがる政治は分断を生み全体均衡を損なう可能性が高い。
そもそもなぜこんな事になったのか。原因は3つあるように思える。
まず、自民党は民主党による政権交代を自分たちに対する否定だと受け止めた。このため安倍総理が政権に復帰して以降「悪夢の民主党政権」などと表現することが増えている。現在の若年有権者はこのメッセージをシャワーのように浴び続けてきた。
次に中国の台頭により日本の存在感が薄くなりつつある。高市総理は「強い日本が戻ってきた」と主張している。アメリカ合衆国政府は人質政治に陥り軍隊の予算が捻出できていないため強いアメリカを背景にした強い日本は単なる絵空事だがそれでも強い日本を信じたいという人が大勢いるのだろう。
最後に日本の政治予算は高齢者優遇であり若者はまとまった権利主張ができていない。また地域コミュニティもないためアイデンティティが「日本人」になりがちだ。このため高齢者対現役世代という特有の分断構造が作られ「日本を支えている自分たちこそが正義である」と信じたい人が増えている。
民主主義が分断状態に陥る理由には制度的なものと心理的なものがあると整理できる。これをかろうじて食い止めているのが小選挙区以外の選挙区(つまり比例)と議院内閣制度だ。
維新は決められる政治を推進したいのだろうが、この行き着く先はおそらく不毛な抵抗運動になる。特に政治風土の面では問題解決よりも勝ち負けと序列にこだわる人々が増えており「わかりにくく決められない制度の維持」がある種防波堤の異様な役割を果たしていると言えるだろう。
