戦後民主主義世代なので「立憲君主制はどこか遅れた制度だ」という認識があった。しかしカナダでのチャールズ3世国王の演説を聞いて「立憲君主制も捨てたものではないかもしれない」と感じた。「南の共和国」のドタバタぶりを毎日見せつけられているからだろう。
チャールズ3世国王が首相の要請でカナダ議会に招かれて演説を行った。カナダの歴史上3回目とのことだ。演説が終わるまですべての立法手続きは中止される。つまり国王演説は国の重要な方針転換と見なされているということになる。
This is only the third time in the country’s history that a monarch has delivered the throne speech, which must be read before the House of Commons or the Senate can go ahead with any of its legislative business. In addition to her 1957 address, the Queen delivered one in 1977 — nearly 50 years ago.
King says ‘strong and free’ Canada is a force for good in historic throne speech(CBC)
国王演説の草稿は形式上は招待を受けた国王が自らの言葉でカナダの今後の方針を決めたことになっているようだ。演説の中で、アメリカ合衆国とカナダの関係はかつてなく緊張しているが、これを機会としてカナダの経済改革を推し進めなければならないとする内容になっている。併合を仄めかすトランプ大統領に対する直接的な批判は避けつつもこれまでになく直截な表現になっているとのこと。
カナダ議会は毎回君主の演説が行われているが、カナダ議会が草稿を書き総督によって公開される。つまり実質的に国王は介在しない。しかしながら「南の共和国」の下品な大統領から併合の脅しを受けているカナダは主権の再確認のために国王を召喚したことになる。
The speech from the throne is traditionally written by the Canadian government and delivered to parliament by the country’s governor general. But newly-elected Prime Minister Mark Carney invited Charles to give the speech, telling reporters, the king’s visit to Canada “clearly underscores the sovereignty of our country.”
King Charles III defends Canada’s sovereignty in speech to open parliament(ABC News)
カナダのCBCは国王訪問はリラックスしたカジュアルなものだったと強調している。これこそが「カナダ式」であり南の共和国とは違うのだという点を強調している。
国家の代表を自分たちで決められる大統領制は国民団結の象徴になり得る。しかし一旦国家が分裂状態になると「分断の象徴」になってしまう。そして実際に、南の共和国であるアメリカ合衆国や韓国などは激しい分断が起きている。トランプ大統領は今日も「反ユダヤ」「反アメリカ」という言葉を使ってハーバード大学を虐めており、留学希望者のSNSを思想チェックするなどと息巻いている。アメリカ合衆国で勉強したい人は反トランプ発言はしないに限るが、これはかつて20世紀の若者が憧れていた自由の国アメリカが失われたことを意味している。
個人的に、これまで憲法第一条を「そもそも国民などという総体は存在しないのではないか」と考えていた。
天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であって、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基づく
宮内庁
非常に皮肉なことだがGHQ(アメリカ)が「押し付けた」とされる日本国憲法だがこの「国民統合の象徴」という言葉は分断の世紀になりつつある21世紀には非常に重要な国家資産なのかもしれない。伝統に裏付けられており一度失われてしまうと再現するのは不可能だ。
なお、君主制から立憲制に移行したイギリスでは国王は議会に入れないが、今回は自らカナダ議会の壇上に立ち開会を行った。実に70年ぶりのことなのだそうだ。戴冠式で見せた伝統的なローブ姿でも軍服でもなく背広姿だったのもどこか新鮮に映る。
