政府が実質賃金上昇を政策目標に掲げた。これを見て「石破総理にはやはり経済政策は無理だった」と感じた。大学生レベルの基本的な経済知識を持っている人であれば簡単に理解できるが、Yahooニュースのコメント欄には「国債を発行して消費税を減らせばいいだけだ」とのコメントが溢れていた。現在の政治言論状況は大学生レベルの経済知識を持っていないことがわかる。
このエントリーはAmazonを引き合いになぜ自民党がマクロ政策に立ち入ることができず従って問題を解決できないのかを説明する。
これまで2つのエントリーで「石破総理には無理だった」と説明をしてきた。このエントリーは結論パートになる。石破総理はなぜ今になって実質賃金上昇を掲げたのか。それは無党派層の怒りが「消費税減税」という単純な結論に向いているからだろう。問題を解決するためには統計的な実質賃金を上げればいいと考えた。
つまりこれは無党派に向けた選挙対策だ。
ただ、NRIが指摘するように実質賃金上昇は「結果」であってそれ自体をプロジェクトの目的に掲げることはできない。それぞれの業界や企業に「割り当てない」限り企業はそもそも自分たちの従業員に対する賃金をいくらに上げていいかわからないからだ。こんな事ができるのは共産主義の統制経済だけだろう。
支持率が伸びなやみ集団思考に陥った自民党はそれが理解できない。
ただしこれは問題のほんの入り口に過ぎない。
この石破総理の対策は中小零細企業支援を正当化するための「お題目」になってしまっている。つまり中小零細企業に支援を分配するための材料に過ぎない。
石破茂首相は会議で「中小企業、小規模事業者の経営変革の後押しと賃上げ環境の整備に政策資源を総動員する」と述べた。
政府、賃上げ実質1%定着目指す 中小支援へ5カ年計画(共同通信)
何も始まっていないうちから「駄目だ駄目だ」と決めつけるのはいかがなものか?という批判が予想される。
そのために取り上げたのがコメの価格上昇だった。コメの価格上昇の原因はスーパーでも農協でもなく中間業者だった。ところが政府が働きかけることができるのはその入口の集荷業者だけである。結果的にコメの値段は下がっていないうえに農家にも還元されていない。
政府は小売業を整理する大胆な政策を打つことで中間業者を透明化することができる。NRIはこれを「構造改革」と言っている。これを民間で成し遂げたのがAmazonだ。Amazonが登場したことで新しく作られた機会もある一方で潰れてしまった中小零細企業も多い。
石破総理の計画が「選挙対策」である限りコメの収量を劇的にアップさせるような大胆なプランを提示することはできない。コメの輸入は森山裕幹事長に却下されてしまっている。またおそらく既存の中小零細企業の淘汰につながるような大胆な整理もできないだろう。
労働分配率が変わらない限りにおいては生産性向上のみが実質賃金上昇につながるという前提を受け入れたうえで、現在の政府が大胆な生産性向上に取り組めないのであれば、その結果は「石破総理では実質賃金は上げることはできない」という結論につながる。
実は問題はこの先にあるのかもしれない。石破総理に経済対策が無理だったとしても別の政党なら可能かもしれない。ところがヤフーニュースのコメント欄を見ると「消費税を減免し赤字国債を発行すれば問題は直ちに解決する」とするものが多い。これは戦前の議会政治の行き詰まりによく似ている。議会政治が行き詰ると人々は軍部の中国大陸進出に期待を寄せるようになった。実際に中国大陸進出によって経済は持ち直すのだが、やがて国際社会と衝突し敗戦という無惨な結末につながっている。政治が議論を主導できなくなると国民はより単純なソリューションに流れてゆく。

Comments
“石破総理にはやはり無理だった(3/3) 選挙対策と経済対策が合致しない” への2件のフィードバック
[…] 石破総理にはやはり無理だった(1/3) 政府が「実質賃金上昇」を政策目標化 石破総理にはやはり無理だった(3/3) 選挙対策と経済対策が合致しない […]
[…] 石破総理にはやはり無理だった(2/3) コメの価格が値下がりしない理由 石破総理にはやはり無理だった(3/3) 選挙対策と経済対策が合致しない […]