9,100人と考えAIとも議論する、変化する国際情勢とあいも変わらずの日本の行方


石破総理「痛切な反省と心からのお詫び」を引き継ぐと李在明大統領に約束

8〜12分

イイネと思ったら、Xでこの投稿をシェアしてください

戦後80周年にあたる2025年8月15日に安倍総理の「謝罪を続ける宿命を背負わせてはいけない」という70年談話を否定するのではないかとされていた石破総理。談話こそ出さなかったが李在明大統領に対して「反省とお詫びを全体として引き継いでいる」と宣言した。「全体として」と入れることで言葉をぼかしているつもりなのだろうが、「何らかの形で心境を示す」という野田佳彦代表との約束を果たしてしまった。

尹錫悦大統領の罷免騒ぎのときに星条旗を持った人たちがいた。李在明大統領になれば米韓同盟が危機にさらされると考える人が多かったことを物語っている。この懸念を払拭するために李在明大統領はまずアメリカを訪問することにした。その前に日本に立ち寄って具体的なアドバイスを得る狙いがあったものと考えられている。

産経新聞は「日本は東アジアのチーム長」とする韓国紙の記者の発言を紹介している。何かと序列を決めたがる韓国人らしい表現。準家族であり気持ちが通じ合ったヒョンではなく職場の序列をあらわすチーム長というのもいかにも韓国らしい使い分け。朝鮮日報中央日報(いずれも米韓同盟重視の保守系)の記事を見つけたがどちらも評価は概ね公表だった。チーム長発言も保守系記者の言葉なのではないかと思うが産経新聞の記事からは確認できない。

今後李在明政権が何らかの政治的危機にさらされればこの評価は一転する可能性もあるのだろうがこうした態度表明はあくまでも韓国世論に向けてのもの。

日本人の中にはいちいち「韓国は反日だ」などと騒ぎ立てるナイーブな人たちがいるが日本にはなんの関係もないと知ることが重要である。今はアメリカとの関係改善のために日本の協力を必要としているのだからこの関係をうまく利用すべきだろうがナイーブな人は「是々非々のお付き合い」が苦手である。

そんな中で石破総理は日本政府は過去の談話を引き継ぎますよと宣言してみせた。こちらも韓国に向けての発言ではなく国内的な発言なのかもしれない。

河野談話・村山談話では反省とお詫びが述べられたが韓国政府は「具体的内容に乏しい」と反発。この結果小渕恵三総理・金大中大統領時代に「共同宣言」が出された。未来志向で協力関係を構築するためには「痛切な反省と心からのお詫び」が必要であるという内容になっている。

この路線を修正したのが安倍総理だった。協力関係の基礎は痛切な反省と心からのお詫びであるという関係性を「謝罪を続ける宿命を背負わせてはいけない」という宣言だった。

問題はこの発言の真意である。

「安倍政権時代には一貫して非主流派だった」と書こうとして過去の役職を調べた。すると野党時代には安倍総裁・石破幹事長の関係であり第二次政権では安保法制担当大臣を打診され「地方創生で」と逃げている。

石破総理は田中角栄路線を引き継いだ地方分配型の政治家なのだから「地方創生」は理にかなった選択肢といえる。一方で安倍総理が推進する「憲法解釈を変更してでも日米同盟をつなぎとめるべきだ」という考え方には同調したくなかったものと考えることができる。その他の発言から考えると是々非々の日米関係が持論なのだろう。

しかしながら、安倍派の政治とカネの問題から「派閥」そのものが悪であるという風潮が生まれると派閥を通じた外交方針の策定という機能が自民党から失われてしまった。自民党の派閥は大きな外交的な枠組みを決める非公式かつ重要な意思決定装置だった。

一連の石破総理の姿勢を見ると、日米同盟を維持しつつ徐々にアジアシフトを通じてその重要性を低下させてゆくという戦略性を感じる。しかし石破総理は仲間を作って考え方を広めるのが極めて苦手な政治家だった。石破派(水月会)の地方分配・日米同盟からの穏やかな脱却という考えが広がることはなかった。

一方の安倍派は「とにかく自分たちが間違っていたと認めたくない」というアイデンティティ・クライシスに陥っておりアレルギーにかかったように石破総理に対する反発心を見せている。

自民党には派閥はもはやほとんど存在せず長老の意思による権力闘争だけが残った。誠に不毛だとは思うのだが、

今回の路線修正も政局の文脈でのみ語られることになるのかもしれない。烏合の衆が権力を争う醜い様は亡国的と言ってよいのだろうだが「核を失った自民党」にはそれ以外の選択肢はないのだろう。そんな中で石破総理の今回の発言がどのように処理されるのか。個人的には注目したいと思っている。