先日のエントリーでは「選挙後に政権の枠組みが組み変わる可能性があり今の選挙公約は無意味になる」と書いた。明示的には書いていないが読解力があるかたは十分に読み取っていただけたものと思う。つまり選挙で示された有権者の意思はご破産になる可能性がある。
実際にその通りの展開になりつつある。事前予想通り石破総理が続投への意欲を滲ませた。21日に会見を開き今後の見通しについて説明することになっている。Bloombergは早くも「石破茂首相は続投の意向を表明したが、政権基盤はさらに弱体化する。与党大敗で財政悪化懸念が広がり、市場が不安定化する恐れもある。」としている。会見で記者たちからの懸念に応えられなければかなり荒れた市場展開となるはずだ。
自民党は各地で様々な理由から惨敗しており今後戦犯探しが活発化するものと見られる。時事通信は政局が流動化するだろうとしている。執行部がアジェンダを実行するためには思い切ったバラマキが必要だがビジョンを示すことができなければ「関税交渉で交渉力を発揮できない」ことが市場の動揺を招く可能性もある。
NHKによると「自公過半数は微妙な情勢」ということになっていたが午前4時前に「過半数割れ確実」が決定した。
理由はいくつかある。つまり何か一つの原因で自民党が負けたわけではない。
- 東北地方の1人区では軒並み票を落としている。小泉農政改革が離反された可能性がある。
- 小泉農政改革は都市の無党派層つなぎとめを意図したものだったが、ここでは参政党が躍進している。
- これとは別に保守分裂の影響で議席を落とした地域が複数ある。
- さらに公明党も高齢化により地盤沈下を起こしている。
これまでの分配構造が崩れることで自民党を支えてきた保守という基盤が失われている。そしてその現象は複合的で回復の糸口が見つかっていない。
し石破総理は眼の前の現状を認めることができない。国難であり比較第一党を維持できたのだから下野も辞任もしないと言っている。過半数獲得が微妙な情勢(つまり立憲民主党が大勝できなかった)なので少数政党を抱き込めば政権を維持すること自体は可能である。
ただ関税交渉でもそもそも意思決定できないベッセント財務長官と仲良くなるためにアポ無し訪米を続ける以外の戦略はない。政権基盤が崩壊状態となるなかで市場が「日本には交渉能力なし」と無慈悲な判決を下せば、週明けの市場は荒れるだろう。
石破政権は消費税死守を第一目標に掲げる。そしてこれを守るためならば多少のバラマキも厭わないという姿勢だった。野田佳彦氏も同じ姿勢。消費税率を維持するためには時限的減税も厭わないと言う姿勢。つまりバラマキは取引だった。
もちろん、自民党内には財政拡大派がいる。今回の参議院選挙で財政を拡張しなければ次の衆議院選挙では勝てないと再認識した人も多かったのではないかと思う。このため財政拡大派の旗手をたてて石破総理に対抗する人たちが出てくることが予想される。これまで執行部は公認権を盾に防戦することができていたが、次の選挙までは数年の時間がある。
高市早苗氏が戦略的財政政策を掲げているがこれが政策として自民党の中で1本化されていない。高市氏を支援している麻生太郎氏は財政均衡派だ。
今回の参議院選挙ではこれまで安倍政権を支えていた人たちの離反が確認できる。ネトウヨの数の指標だった和田政宗氏への得票が減っている。おそらく参政党に流れたのだろう。
立憲民主党も同じ事情を抱える。都市部の不満の受け皿は国民民主党と参政党だった。同じ現役世代と言っても社会制度にルサンチマンを感じている氷河期世代と氷河期の影響を受けなかったそれより若い層では支持政党が違っていたようだ。前者は参政党を支持し後者は国民民主党に流れた可能性が指摘されている。立憲民主党を支持しているのはさらに高齢化した層なので野田路線が続けば将来的に地盤沈下を起こす可能性がそれなりに高い。年代ごとに利益相反があるためリベラル勢力の結集は望めないだろう。
すでに指摘した通り日本には政策集約の枠組みがない。政党は狭い永田町ムラの人間関係で決まってしまう。さらにそもそも政党の内部に異なる意見を持っている人たちが寄り集まっている。
二大政党制はまず政党が政策を決めてから有権者がどちらかを選ぶことになっている。しかしそもそも政策集約機能がないために選挙でだいたいの勢力を作ってから「永田町で勝手に政策を組み替える」というアメリカでは考えられないことが起きる。
ただしこれを正直に書いてしまうと「選挙に行っても無駄ですね」ということになってしまう。だから、選挙直前の投稿は行間に「選挙が終わってから組み換えがあるかもしれませんよ」としたが、直接は書かなかった。
せいぜい「私は投票に行きますが、皆さんはどうぞご自由に」というしかなかったのだ。正直に政治ブログを書くのもなかなか大変なのである。
