王様は常に庶民の暮らしに気を配らなければならない。アメリカのトランプ大統領はニューヨーク市、ニュージャージー州、バージニア州の首長選挙を通じて「庶民が経済の問題で疲れている」ことは理解したようだ。しかし贅沢な暮らしを送っているため庶民の暮らしがわからず経済の仕組みにも精通していない。このため言っていることがめちゃくちゃになっている。
このような状況を見ていると「誰か助けてやればいいのに」と思うのだが、進言してくれる部下はいないらしい。
連邦政府の閉鎖が39日目に入った。民主党は結論先延ばしを提唱したが共和党がこれを拒否した。トランプ大統領はフィリバスターの廃止を求めているが多数派を失ったときに復讐されることを恐れた共和党はフィリバスター廃止に応じるつもりはないようである。現在は管制官不足からフライトの10%キャンセルが実施されている。連邦政府閉鎖が続けば20%がキャンセルになり特定空域の閉鎖も起きるかもしれない。ホリデイシーズンの観光業は大打撃を受けるだろう。
4200万人が何らかの形で「栄養補助=フードスタンプ」を受けている。現在フードスタンプ事業はかなり不安定な状況に陥っておりこのままでは餓死者が出かねない状況。しかしこれらは有権者にとっては「彼らの問題=他人ごと」だ。
ただし経済問題を自分ごとと捉える人も増えており、これが特にニュージャージー州とバージニア州の選挙課題だった。トランプ大統領もこのままではまずいということに気がついたようだ。
しかし、問題を落ち着いて考えたうえで解決可能なプランに落とし込むことができないうえに信頼できる部下もいない。そこで言っていることが無茶苦茶になっている。
例えば庶民の人気を得るために有名な元野球選手を恩赦した。ただ恩赦されたのは30年前の脱税事件だったそうだ。
さらに庶民が好みそうな品物を引き合いに出し物価高などないと言い出した。そのための持ち出したのがウォルマートのサンクスギビングセットである。サンクスギビングの準備のための食材などが詰め合わせになった客寄せ用のキットである。これが安くなったのだからアメリカのに物価高は存在しないと言い出した。
実はウォルマートのサンクスギビングセットは品物をプライベートブランドに変えたり品数を減らしたりして価格を抑えている。庶民から見ればダウングレードぶりは明らかだが華麗なるギャツビーを参考にした豪華な晩餐会を楽しむ贅沢な暮らしに慣れたトランプ大統領にそんなことがわかるはずもない。
ではなぜウォルマートはサンクスギビンクセットをダウングレードしたのか。背景にあるのがスマート消費者の台頭である。インターネットで情報が豊富に取れるようになったために」「賢い消費者」が増えていたが、このところの先行き不安でメリハリ消費が拡大している。
さらにK型経済も進行中だ。資産が増えた富裕層は消費を拡大させているが、庶民は消費を抑えるようになってきている。つまりアメリカ合衆国は4200万人の低所得者、先行きに漠然とした不安を抱えつつ「お金を使えるところには使いたい」という庶民、トランプ大統領の政策の恩恵を受ける富裕層という3層構造がある。
このため極端な低価格と極端な高価格の二極化が進んでいる。
さらに流通の仕組みがよくわかっていないトランプ大統領の食肉価格政策も物議を醸している。Axiosによれば牛肉価格この高騰の原因は干魃、家畜の減少、労働力不足、そして長引くCOVID-19の影響など複合的なのだそうだが、トランプ大統領は「食肉加工業者が中抜きをしているのではないか?」と疑ったようである。司法省に食肉加工業者を捜査するように命じたそうである。
Bloombergも「トランプ氏、牛肉高騰は食肉業界の「不正」が原因-司法省に捜査指示」という記事を書いている。当初アルゼンチンの親米政権を守るために食肉輸入を提案していたが、構造問題が解决していないなかで輸入牛肉が増えれば産業が壊滅すると懸念を強めるアメリカの畜産農家から猛反発を受けていた。
当初、トランプ大統領の政策を見た時に「明らかに庶民に不利な内容が多い」と感じ「富裕層に利益誘導するために庶民を騙しているのではないか」と思ったのだが、どうやらそもそも経済が理解できていないために矛盾を矛盾と感じていないようだ。
その上攻撃と恫喝しか交渉のツールがないという政治家としては致命的な欠陥を抱えており、連邦政府閉鎖問題でも引くに引けなくなっている。
トランプ大統領に振り回されてきた日本人は「トランプ大統領が選挙で負けても当然だ」と考えるかもしれない。しかし連邦議会にねじれが生じると有権者の怒りを国外に転じるために日本のような同盟国に圧力をかけることが予想される。なかなか厄介な状況が生まれ始めているのかもしれない。
