トランプ大統領がイランに対して無条件降伏を要求した。一見するとイランが追い詰められているように見える。しかし実際には、詰んでしまっているのはトランプ大統領のほうである。イランが無条件降伏さえしなければ「トランプに負けなかった」という構図が作られてしまうからだ。
トランプ大統領はイランに対して、無条件降伏以外に選択肢はないと最後通牒を突きつけた。これに呼応するようにイランは湾岸諸国への攻撃を中止した。同時に「無条件降伏はしない」と表明している。
ルビオ国務長官は今回の攻撃について、イスラエルがイランを攻撃すれば、アメリカ合衆国が湾岸諸国に置いてある基地がイランに攻撃されるため、アメリカ合衆国にとっての危機だったと説明している。つまりイランが湾岸諸国への攻撃を中止すると、アメリカ合衆国がイランを攻撃する理由がなくなる。
イランが無条件降伏に応じなければトランプ大統領の勝ちも消える。ホワイトハウスは「無条件降伏の定義はトランプ大統領が定める」としている。国内的には通用するのかもしれないが(そもそもアメリカ合衆国の国内政治はこのところ、おおむね詭弁によって成立している)、対外的にはまったく通用しない理屈である。
また、トランプ大統領が同日、イランとの間で「無条件降伏」以外の合意は成立しないと述べたことについて、「トランプ氏は米軍最高司令官として、イランがもはや米国にとって脅威ではないと判断し、対イラン作戦の目的が完全に達成された時点で、イランが意思表明するかどうかにかかわらず、実質的に無条件降伏することになるという意味だ」と説明した。
イラン空域制圧へ作戦順調、米が新指導者候補を複数検討=米報道官(REUTERS)
トランプ大統領の手法は「破綻したカリスマ経営者」的である。投資家にアピールする成果を求めてさまざまなプロジェクトに手を出し、ことごとく失敗している。華々しい成果が起点なので、プロジェクトのリスク評価とコストの見積もりが軽視される。
しかし今回はただでは済みそうにない。最初の100時間で37億ドル(日本円に換算して約5800億円)を浪費したと言われている。
もちろん、イラン問題だけでトランプ大統領の評価が下がることはないだろうが、風向きは徐々に変わりつつある。エプスタイン・ファイル問題でトランプ大統領の過去の性加害疑惑が出てきた。さらに足元の経済状況がかなり悪化しつつある。もともとこれら2つの問題を隠すためにも目を外に向ける必要があったトランプ大統領だが、今回の一連の軍事行動で、MAGAの中から「実はトランプ大統領はアメリカファーストではなくイスラエルファーストなのではないか」との疑念が生じている。
仮にトランプ大統領が事態を巻き返せなければ、中間選挙で敗北することが予想される。中間選挙で敗北した場合に備えて「選挙は中国から介入されていたから無効である」と宣言する可能性がある。おそらく、この時点でアメリカ合衆国の政治はさらに混乱の度合いが一段上がることになる。
当初、今回の戦争はなかなか終わらないのではないかと考えた。それは、追い込まれたイラン側が「非合理的な」神権政治へと回帰するのではないかと考えたからだ。しかし、これまでのゲーム展開を見ていると、イランは非合理層と合理層をかなりうまく織り合わせている。国土が激しく攻撃される中でも、かなり冷静な対応だといえる。一方、イラン国内では厳しい言論弾圧も行われており、NHKの支局長の行方も未だにわかっていない。
一方で、盤石に見えたアメリカ合衆国が意外な崩れ方をしていて、政治的内戦と混乱の可能性が出てきた。世界経済の明確な勝者であるはずのアメリカ合衆国には、そもそも自壊する動機がないだけに「なぜこうなるのだろう」と不思議に思える。
今回の対イラン攻撃では、ロシアがイランに米軍の位置情報などを提供していると言われている。アメリカ合衆国とヨーロッパはウクライナを「間接的に支援」し、ロシアがイランを「間接的に支援」している。明確な宣戦布告がないため誰も世界大戦とは言わないが、つまり、すでに規模としては「世界大戦レベル」になっている。落とし所がわからなくなったトランプ大統領は兵器生産を4倍にすると息巻いているそうだ。

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