9,100人と考えAIとも議論する、変化する国際情勢とあいも変わらずの日本の行方

トランプ大統領と石破総理の会見を見ていたとき、日本製鉄の話なのに「日産」の名前が出ていた。「日本企業団の交渉でも始まるのだろうか?」と考えたのだがどうやらトランプ大統領の言い間違いだったようだ。各社とも今回の提案に「具体的にどうするのだろうか?」と首をひねっている。日本製鉄はとにかくとても面倒な何かに巻き込まれてしまったようだ。

非常に興味深いことに日本の経営者や企業トップが読む日経新聞は「日米黄金時代など所詮金メッキ」と怒りの滲む記事を出している。日本製鉄の擁護に動かなかった日本政府への産業界の反発心は激しいものになっているようだ。

日本製鉄の話の中に日産が出てきた。「短信」としてまとめたときには「今後自動車メーカーを含めた交渉でも始まるのだろう」と勝手に解釈してしまったのだが、どうやらトランプ大統領の言い間違いだったようだ。

時事通信によると「REUTERSが一時日産がUSスチールに投資をすると書いた」が「ホワイトハウスに確認をした結果訂正された」ことになっている。

トランプ氏の発言を受け、ロイター通信が「日産がUSスチールに投資する」と速報するなど、一時混乱が広がった。

日鉄と日産、何度も混同 ホワイトハウスが訂正―トランプ米大統領(時事通信)

REUTERSは記事を修正している。

BBC、CNN、Bloombergの論評はそれぞれ下記。

BBCは会社名は日本製鉄としているが通称は「新日鉄」のままだと思っているようだ。他人の言い間違いを指摘する文脈なので少々恥ずかしい間違いという気がする。と同時に日本製鉄の知名度がそれほど高くないこともわかる。

トランプ大統領は今回、新日鉄を「ニッサン」と誤って呼びながらも、来週にも新日鉄のトップと会い、「仲介と仲裁」を行うと発表。また、新日鉄がUSスチールの過半数株式を取得しないまま「多額の投資」すると述べた。

日米首脳会談、日本製鉄のUSスチール買収計画に「代わりに多額の投資」すると発表(BBC)

官営八幡製鐵所が複数の製鉄所と合併し1934年に作られたのが「日本製鐵」だった。その後財閥解体を受け八幡製鐵所(八幡+光・堺・君津)と富士製鐵(広畑・室蘭・釜石+名古屋)に分かれるが1970年に合併した。このときに「新」日本製鐵になっている。その後に住友金属工業と合併し2019年4月に日本製鉄と名前が変わった。官営製鉄の流れをくみ長らく製鐵という文字を使っていたがこのときに「製鉄」に改められている。つまりかつての新日鉄と今の日本製鉄はまるで別の会社なのだがBBCの翻訳担当者はこれを知らなかったのかもしれない。

トランプ大統領は「アメリカの会社が買われること」には難色を示しているが「どこの会社が買うのか」にはさほど興味がない。あくまでも自分のことにしか興味がない人物と言える。実際のトランプ大統領の発言は次のようなものだった。

“U.S. Steel is a very important company to us,” Trump said. “We didn’t want to see that leave – and it wouldn’t actually leave – but the concept, psychologically, not good. So they’ve agreed to invest heavily in U.S. Steel, as opposed to own it.”

「USスチールは我々にとってとても重要な会社。それが去るのを見たくない。そんなことにはならないだろうが心理的にそういう考えは良くない。だから彼らは所有するのではなく投資することにしたんだ。」とトランプ大統領

Trump says Japan’s Nippon Steel will now invest in U.S. Steel — not take it over(NPR)

そもそも「彼ら」が日本政府なのか日本製鉄なのかが曖昧な上に「日本製鉄がUSスチールを買収するとUSスチールがなくなる」と心理的に誤認している。あくまでも曖昧な印象論を振りかざしているだけなのである。故に「投資」が何を指すのかもさっぱりわからない。BBCは一体どうするつもりなのだろうと当惑している。

そもそもクリーブランドクリスフが心理的に煽り立てバイデン大統領を巻き込んだ政治宣伝に翻弄された日本製鉄だが、急にトランプ大統領に呼ばれる展開になった。日本製鉄にはトランプ大統領が気に入るようなプランを提示する以外の選択肢はない。最悪の事態としてはUSスチールの放漫な経営陣をそのままにして「お荷物」を背負わされる危険性もある。日本製鉄側はかなり当惑しているのではないかと思う。「コメントできない」として詳細への言及を避けている。

今回の騒動について日本の産業界の石破総理への恨みはかなり強いようで日経新聞は「成果などない金メッキだ」と言っている。

日米黄金時代は金メッキか トランプ氏、鉄鋼買収にクギという政策報道ユニット長奥村茂三郎氏の記名記事は冒頭から「期待が低かったから成功と言われているだけ」と成果をこき下ろし「所詮は表面が輝いているだけだろう」と評価をしている。

日経新聞は「日鉄のUSスチール買収、距離保つ経産省の建前と本音」という記事を出していた。経産省はできるだけアメリカの政治闘争に巻き込まれたくないという本音があったのだろう。その後も「日本製鉄を支援するために政府の積極的な協力が必要」と力説していた。しかし、結果的に日本政府は会談の成功と引き換えに日本製鉄を売り渡し「買収断念」を後押しする結果となった

これが「石破総理のいう日米黄金時代など所詮金メッキだ、絶対に認めないぞ」という評価につながっているのかもしれない。

コンテンツのリクエストや誤字脱字の報告はこちらまで