日本版DOGEの設立が決まった。結論だけを書くと極めて弊害が大きい組織になるだろう。日本ではアメリカでもやっているDOGEという紹介をされているが実はDOGEはアメリカではすでに解体している。うまく行かなかったのである。アメリカ合衆国では各省庁とイーロン・マスク氏の間に深刻な確執が生じている。
時事通信によれば日本版DOGEは内閣官房に作られ片山さつき財務大臣と遠藤敬首相補佐官が入る。事実上は遠藤長官の組織だが責任回避のために内閣の一員にはしない。これはトランプ政権のやり方を真似たものだろう。トランプ政権では同じ役割をイーロン・マスク氏がになったが「特別職員」とされ立場が曖昧だった。
CNNは「「消滅」したとされるDOGE、分かっていることと分かっていないこと」で次のように書いている。
- まず権限が曖昧
- DOGE関係者がどこに居たのか(そして今もいるのか)が示されていない
- DOGEが挙げたとされる効果が測定不能
アメリカ合衆国では温厚なベッセント財務長官がマスク氏に食ってかかったといわれている。それだけ抵抗が強かったのだ。
しかしながら日本ではそれ以上の懸念材料もある。
片山さつき財務大臣はご意見募集も一つの手なのではないかと言っている。これまでなかなか手がつけられなかった聖域に対して国民世論を煽り政治的エネルギーに変えようとする狙いがあるものと考えられる。
立場が曖昧な遠藤敬氏が入っているのも気がかりだ。遠藤氏が直接世論に訴えることはないだろうがおそらく情報は維新に入ってくる。維新は「既得権にはこんな無駄もある」と宣伝しテレビを中心に選挙キャンペーンに役立てることを考えるだろう。ポピュリズム型の政治ではよく見られる手法といえる。
従来型の自民党政治は選挙と陳情を組み合わせた選挙運動を展開していた。極めて効率的な田中角栄氏の手法について石破茂氏は「総合病院」と独特の言い回しで表現している。
小沢一郎氏も幹事長として陳情の決裁権限を一手に集め独裁的手法で選挙をコントロールしようとした。当時は「族議員の弊害をなくす」などとされていたが反発も大きかった。鳩山政権は菅直人氏を中心に「国家戦略局」を作り予算編成を一元化しようとしていたが、選挙陳情を小沢一郎氏が独占したことで党・政府の意思決定も混乱した。族議員たちも抵抗したことでこの構想は袋小路に陥り単なる総理大臣の知恵袋になってしまっている。「断念」を決めたのは国家戦略局構想を持っていた菅直人氏自身だった。
現在の自民党維新政権は「世論を背景に政治主導を徹底させたい」という思惑があるのだろう。確かに期待感を示す人は多い。NRIの木内登英氏も期待を寄せているようだ。
しかしながら政治の一方的な既得権整理はかなり戦略的に進めないと単に支持母体を動揺させるだけに終わる可能性が高い。この失敗例も民主党政権に見ることができる。それは残酷政治ショーと受け止められた蓮舫氏の行政仕訳だ。
蓮舫氏の例からもわかるように最も懸念されるのは維新が世論誘導に成功してしまった時である。おそらく高市政権の支持率は上がるだろうが、無党派層は組織的に自民党を応援したりはしない。結果的に自民党の支持基盤が動揺するだけに終わってしまう可能性が高い。
高市総理の危機管理能力の欠如も気がかりだ。
高市総理は総務大臣時代に総務官僚と確執があったと伝えられており、2023年の放送法文書問題で表面化した。ただしこれが総務官僚の正義感(放送行政の在り方)から来たものなのかあるいは既得権(総務官僚が放送局を監督するのであってその権限を内閣に奪われたくない)だったのかは未だに明らかになっていない。おそらくはこの両方が混じり合っていたはずである。
つまり世論の圧力が強まれば強まるほど官僚は「自分たちの存在意義」が脅威にさらされていると考えて政府に反抗するようになるだろう。
アメリカ合衆国は権限委譲がはっきりとした国なので争いはあくまでも「予算と権限」に限定された。しかし、権限委譲が曖昧な日本では受動的ながらも感情的な抵抗に泥沼化しやすい。
