9,100人と考えAIとも議論する、変化する国際情勢とあいも変わらずの日本の行方


憲法秩序の書き換え トランプ大統領が目指すもの

7〜10分

イイネと思ったら、Xでこの投稿をシェアしてください

このところ対ICE抗議運動の鎮圧が大きなニュースになっているがトランプ政権の目指すものがかなり明確になってきた。それが憲法秩序の書き換えである。一部の有権者はこれを強力に支持しており構造的に第二次世界大戦前のドイツに類似してきた。中間層の不安を背景に共産党やユダヤ系が「内なる敵」として攻撃されたあの時代だ。

トランプ政権は「平和的なデモは行ってもいい」と容認姿勢を見せている。何が平和的かは政権が決める。その枠内であればガス抜きは行ってよろしいという宣言である。

ルビオ国務長官は「留学は特権」だと言っていた。その特権を与えるのはアメリカ合衆国政府。デモも特権ということになり政権の姿勢は一貫している。

何が正しいかは政府が決めるという姿勢は厚生行政にも及んでいる。反ワクチン派のケネディ長官がワクチン批判論者をCDCの独立ボードに起用した。陰謀論であろうが何が正しいかは政府が決めるということだ。

ただこうなってしまうと統計に問題が起きる。例えばアメリカ合衆国ではハシカが大流行中だ。ただ対処は簡単だ。統計を止めてしまえばいい。

合衆国のインフレ調査をしている職員たちの人員削減が計画されているそうである。インフレ統計がなくなれば政府が「インフレなどない」と宣言して終わりになる。後はすべて気のせいということになる。

一方で反アメリカ的な行為は当局によって厳しく制限される。そしてその定義は巧妙に少しづつ書き換えられてゆく。当事者たちは意外と気が付かない。

現在はナショナル・ガード(日本語では州兵と訳される)が活動しているがここに密かに海兵隊を入れ込んでいる。彼らには連邦の権威を守りICEの法的執行を防衛する役割が期待されているが、国土安全保障省は「州兵は反アメリカ分子を一時的に拘束し警察に引き渡すことができる」と宣言した。テキサス州知事も「予備的」に州兵を動員し、ジョージア州も反アメリカ的活動を容赦なく取り締まると宣言している。

イギリス国王から独立した経緯があるアメリカ合衆国では軍隊が国民に銃口を向けることに対する激しい忌避感情がある。トランプ政権はこの境界線を巧みに移動させようとしており今のところこれは成功しつつある。

非常事態であり仕方がないというわけだ。

まず国境の外からくる「敵」を容赦しないとして国防総省の他に国土安全保障省を作る。次に敵は国内にもいると「内なる敵」を設定し国内にいる不法移民を逮捕する。このときに催涙弾をぶち込み移民を拉致したりいちご畑で移民を追いかけ回すなどの行為が行われているようだ。さらにアメリカの権威を守るためだとして内国民に非殺傷弾の向ける。知事から州兵の指揮権を簒奪しその中に軍人を紛れ込ませておく。

あまりにもスムーズに進んでいるため「バイデン政権の4年間に密かに計画書を作ったのではないか」といういう気さえする。もちろん証拠はない。

だが、アメリカ人は「今は非常事態だ」「移民による犯罪も多かったのだから仕方がない」などと考え、この境界線ずらしを容認してしまう。さらにカオス状況が起きると今何が起きているのかが冷静に把握できなくなる。

第二次世界大戦前のドイツでも同じようなことが行われた。もともとドイツには国民国家の伝統はなく議会は一枚岩になれなかった。第一次世界大戦で多額の賠償金を背負わされたドイツの中間層は疲弊し強いリーダーを求めるようになる。この不満を汲み取った「新しいリーダー」がドイツは共産主義者とユダヤ人に脅かされると宣伝。最終的に非常大権を獲得した。

現在のターゲットは「移民」である。だが6月14日の大規模軍事パレードを前に、ホワイトハウスは平和的なデモは許可されるが「一線を踏み越えれば容赦なく対処する」と警告している。ここでも境界線の移動が行われている。

興奮した群衆を刺激して「反アメリカ的な」行動を起こさせることは極めて容易であろう。6月14日に向けてなにもないことを祈りたい。

コンテンツのリクエストや誤字脱字の報告はこちらまで