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情報収集に務めますの意味
情報収集に務めますとか、注視していますなどと政治家が発言することがある。これは「どうしていいかわからない」が「何もしていない」と批判されることを防ぐためによく使われる永田町や霞が関のマジカルワード(魔法の言葉)である。場合によっては「自分たちは何もしません」という宣言の代わりに使われたりもするようだ。
「情報収集に務めます」が単なる時間稼ぎでない例外
一方で「情報収集」が単なる時間稼ぎではない事例も存在する。
- 【危機管理】 災害や事件で具体的な行動が必須の場合。
- 【政策誘導】 段階的なエスカレーションを通じて、市場や他国にシグナルを送る場合。
- 【国際調整】 外交交渉のために、あえて公的な発言を控える場合。
- 【制度尊重】 法的・制度的プロセスを尊重し、客観的な立場を維持する場合。

情報収集が「何もしない」に感じられてしまうリスクの恐ろしさ
情報収集が「時間稼ぎだ」と決めつけるのは危険なのだが、これが必ずしも決めつけとは言えないのが厄介なところだ。例えば近年では北朝鮮からのミサイル発射実験の際のメッセージが挙げられる。テレビで警報が出るものの結局何も変わらず政府は何もせず具体的な非難プランも語られない。結果的に
- あ、政府はどうせ何もしてくれないんだろうな=諦め
- 結局、いつものようになにもないんだろうな=狼少年効果
が同時に生まれてしまうのだ。
2016年8月に実際にあった事例
2016年8月3日に北朝鮮がミサイル発射実験を行い日本中が騒然としたことがあった。実はこれは北朝鮮、潜水艦からミサイル発射の布石だった。しかし日本政府は「情報収集に務めます」というばかりで結局その成果を国民には伝えなかった。
北朝鮮がミサイルを撃って来た。今回は日本海に落ちたのだが、広島や長崎にもミサイル攻撃ができる。核爆発は誘発できないとしても、汚れた放射性物質をバラまくくらいのことはできるだろう。だが、このことについて騒ぎ立てる人は多くない。北朝鮮がミサイル攻撃できる能力を保有しつつあるという事実がいろいろと不都合だからだろう。
2015年の夏に成立した安保法制には、アメリカと日本が協力している限りは近隣国は日本を攻撃してこないだろうという暗黙の前提があった。同盟にすがりつくことで思考停止してしまったのだ。
ところがこれが実は嘘だということが分かってしまった。ヤケを起こした国は何をするか分からない。欧米と中ロの間にいる国の内戦はなかなか終結しない。北朝鮮も同じように厄介な存在だ。
また、国連制裁のおかげで北朝鮮が孤立しているというのもどうやら嘘のようだ。結局北朝鮮はどこかから部品を調達してきた。全てを密輸に頼っているとは考えにくいことから「国連中心の枠組みに反発している人たち」がいることがわかる。中国やロシアは直接の関与を否定しつつ裏から北朝鮮を援助するインセンティブがある。仲介者を気取りつつ「厄介な国」を和解する体で相手陣営に不安を与えることができる。
北朝鮮の人口は数千万人しかないので地域を脅かすことがない。その意味で北朝鮮は都合のいい国ということが言えるだろう。
アメリカ合衆国も衛星を通じて北朝鮮を監視しているはず。だから、北朝鮮がミサイル準備をしていることは分かっているはずである。にも関わらず日本には情報提供がなかった。もし情報提供があったとすれば、政府が特定秘密を盾に隠蔽していたことになる。これは、国民を危険に晒したというのと同義だ。きっと陸地に着弾しても「知らなかった」というだろう。
後に8月3日の実験は「より秘匿性が高い潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の開発」の全段階だということがわかったのだが、結局政府は国民には何も伝えず1)どうせ大した実験ではなく私たちの暮らしは変わらない 2)察知したところで政府はどうせ何もしてくれないという国民感情を強化させただけだった。
安倍総理の「ロジック」も崩れた
安倍首相は米国議会で「北朝鮮からのミサイルを迎撃する」と約束して拍手喝采を浴びた。しかし、現実にはそんなことはできないということがわかった瞬間でもあった。
そもそもミサイルが飛んでくることが分かっていないわけで、分からない物を迎撃することはできないわけだ。それが当時の「情報収集に努める」という無力な言葉に表れている。情報収集に努めるという言葉は「何も知りませんでした」というのと同じことだ。
あとになって、当時の限定的集団的自衛権の行使容認は議会のねじれに直面していたオバマ政権の強いプレッシャーを受けた懐柔策であるということがわかっている。
そんな中で「今そこにある危機」である北朝鮮のミサイルの影響は軽視された。政府はJアラートを整備することになるが、これも具体的な避難計画が作られなかったことで「どうせミサイルなんか飛んでくるはずはない」という安心感につながってしまっている。つまりは狼少年効果が大きかったのである。
稲田朋美防衛大臣は国内支持者を優先
日本政府は「米国や韓国と協力して北朝鮮に対応する」と言っているのだが、こともあろうに韓国から反発されている稲田朋美氏を防衛大臣にアポイントしてしまった。
稲田朋美大臣はこの8月には靖国神社への参拝を見送ったのだが、別の日に参拝しても大騒ぎになった。この参拝は「韓国と共同で北朝鮮という脅威に対処する」よりは「国内の支持基盤受け」を優先している。つまり北朝鮮の脅威などどうせ大したことはないだろうという気持ちを国民に植え付けてしまっている。
自称愛国者たちはもっとひどい方法で国を裏切っていると言えるだろう。
結果的にロシアと北朝鮮が表立って結びつくことに
この諦めと慣れが入り混じった「情報収集に務める」というメッセージの結果、北朝鮮は事実上核ミサイルの保持を成功させてしまった。2023年9月13日にはプーチン大統領と金正恩総書記ロシア極東アムール州のボストチヌイ宇宙基地で会談し将来の軍事防衛について話し合っている。このときに金正恩総書記はロシアのロケット工学に「大いなる関心」を抱いたと伝えられている。
安倍総理はアメリカの議会をなんとかなだめて日米同盟を危機から救ったのだが、その後に就任したトランプ大統領時代になるとアメリカ(特にホワイトハウス)は同盟をあからさまに軽視し始めている。
しかしながら諦めと軽視が入り混じった日本国民は「どうせ大したことはおこらないだろう」と考え続けている。これが「状況を注視する」という曖昧なメッセージの本当の恐ろしさである。
