第一の疑問は「アメリカ合衆国の大統領が利益追求をしてもよいのか?」という問題である。実はアメリカ合衆国憲法は、大統領に対して国家の利益、すなわち「国益」の追求を職務として認めている。ただし、大統領が国益より私益を優先する「利益相反」については厳しい目が向けられてきた。つまり「国益と私益」の境界を曖昧にしてしまえば、大統領は職権を用いて私益を追求できてしまうという制度上の欠陥が存在する。
例えばTikTokの買収問題では、アメリカ合衆国政府は「安全保障上の理由」を根拠に、アメリカ企業による買収を事実上促した。その過程で米国政府が約100億ドルの「仲介手数料」を得たとされるが、この手続き自体に違法性は認められていない。
大統領が自由に利益を追求できるアメリカ合衆国だが、今回のアメリカ合衆国とイランの戦争には大きな問題が3つある。
- 利益追求のために軍隊を用い、力による現状変更を試みたこと。これは国際法違反の疑いがある。
- 政策としての理論構築が見られず、むしろ事態を面白がっているように見えること。
- それが私利私欲なのか国益なのかが曖昧であり、さらにアメリカ合衆国の利益と同盟国の国益が一致するかどうかも、もはや自明ではないことである。
第一の点については自明であるため、あえて詳しく説明しない。ただし触れておく必要があるのは、日本の安保法制の建て付け上、この問題がアメリカへの協力の可否に直結するからである。
ルビオ国務長官は「イスラエルが攻撃する可能性があり、アメリカ合衆国の基地が危険にさらされることは明白だった」と述べ、「したがってアメリカにとって危機は自明だった」と釈明している。しかしその後、なぜアメリカがこのタイミングで攻撃に踏み切ったのかについて、合理的な説明は示されていない。
しかし、それ以上に深刻なのはトランプ大統領のその後の発言である。大統領は「最初の1時間でアメリカの勝利は決まった」と述べながら、その後も攻撃を継続し、ついにはイランの石油輸出拠点であるハルグ(カーグ)島を攻撃した。さらに、いつ戦争を終わらせるのかと問われると「自分の直感で決める」と発言している。また、インド洋でイランの船を沈めた理由について「軍がその方が楽しいからだ」と説明したとも報じられている。これは共和党議員との会合での発言だったとされ、議員たちの間からは笑いも起きていたという。加えてホワイトハウスは、今回の戦争をゲーム画面とともに紹介する投稿を盛んに行っており、戦争を娯楽のように扱っている印象すら与えている。
- イランとの戦争、終結はいつか 「終わると直感したとき」とトランプ氏(CNN)
- トランプ大統領、イラン船撃沈を「沈める方が楽しい」とジョークで語る(X)
- The gamification of war(Axios)
本稿では、トランプ大統領が「何らかの利益追求のために」行動している可能性に言及している。これはクシュナー氏らが進めるアラブ圏でのビジネス構想や、イランの石油利権をめぐる思惑を念頭に置いたものだ。周辺情報を総合すると、アメリカ合衆国の国益とトランプ大統領周辺のビジネスの境界が曖昧になっている可能性も否定できないがこれを「私益追求」と断定することはできない。
さらに重要なのは、トランプ大統領とネタニヤフ首相によって始められたこの戦争によって、西側諸国全体が利益を得る構図が見えないことである。利益を共有できないにもかかわらず、同盟国は「後始末」だけを押し付けられようとしている。
以上三つの理由により、日本を含む西側先進国の政府は「なぜトランプ大統領に協力しなければならないのか」を国民に説明することが難しくなっている。

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