日本政府とアメリカ政府が関税のフィックスと対米投資のスキームを発表した。石破総理は心理的に不安定になっているため覚書の存在すら明かされないのではと心配したがさすがにそれは杞憂だった。株式市場は今回の取り決めを高く評価している。
しかしながら従来の説明とは異なる極めてアメリカ有利の取り決めになったと分析する専門家もいる。曰く「日本企業の成長・発展のため、ひいては国民の利益ために存在する日本の政府系金融機関が、米国経済・産業のために資金を提供するスキームとなっている」と評価しており国益をアメリカに差し出したことになる。
時事通信は今回の覚書は赤澤経済再生担当大臣の従来の説明通りになったとしている。あくまでも今あるスキームによる融資であり日本政府=日本国民が出資義務を負っているわけではないというのだ。ラトニック商務長官は「完全にアメリカの裁量」と言っているがこちらはスルーされている。
一方で野村総合研究所の木内登英氏は「日米合意の投資に関する覚書:米国優位の不平等な取り決めに」と評価している。木内氏が懸念する問題点は下記の通り。
日米合意の投資に関する覚書:米国優位の不平等な取り決めに(NRI)
- 投資先は大統領が選定し、大統領に推薦する投資委員会は商務長官が議長を務める(委員に日本は加わらない見通し)
- 日本が資金提供を行わない場合、大統領は日本製品に関税を課すことができる
- 日本は資金を提供することが求められる一方、それを用いて投資をするのが日本企業とは明示されていない(米国企業が日本が供与する資金で投資をすることが可能と推察)
- 投資から生じる収益は見直し配当の形で前倒しで分配される。米国の分配率はみなし配当額に相当する部分までは50%、それを超える部分については90%(すべての投資で米国政府は分配を受けとる可能性)
木内氏が心配しているのは「みなし」部分だ。つまりこの事業はこれくらい儲かるはずだからという理由で先に分配することが可能になる。これをアメリカ政府の財源確保策と見ている。つまり儲かりもしない事業の配当が過大に評価され日本は拒否権も監査権を持たないというわけである。
言い方は良くないかもしれないがこのあたりの疑ぐり深さは「蛇の道は蛇」といったところ。傾聴に値する。
トランプ政権の経済政策は行き詰まりつつある。
トランプ政権は関税収入を減税と投資の柱に充てようとしているのだが関税が司法によって差し止められる可能性が出てきた。また経済に悪化の兆しがあり中間選挙での共和党の勝利は確実なものではない。仮に民主党が議会を奪還すれば予算案は通らなくなるレームダック化が進行する。
現在でもトランプ政権はかつてスターウォーズ計画と言われたゴールデンドーム構想に傾斜しており、先日もビッグアナウンスメントと称して宇宙軍司令部のアラバマ移転を決めたばかり。さらに議会承認の目処が立たないままに国防総省を戦争省に名称変更した。経済政策に行き詰ると国内外での「戦い」に傾斜する可能性がある。ゴールデンドーム構想は文字通り夢物語だが仮に議会の賛同が得られなければ日本というATMに向かって「出資しなければ国内の自動車部品産業を壊滅に追い込んでやる」と言い出しかねない。
トランプ大統領は選挙の資金繰りにも苦労しているようだ。仲違いしたはずのイーロン・マスク氏と最接近しようとしているがマスク氏に断られている。テック産業の投資は当然トランプ大統領が有利になるように共和党地域に対して行われなければならないがマスク氏はここから距離をおいている。
石破総理は今回の合意で「将来大統領令を書き換えられても文句は言いません」との念書を差し出した形になった。自民党内での醜い権力争いと歪曲空間に住む石破総理の政権しがみつきへの執念が大きく国益を損なったと言ってよいだろう。
日本はアメリカ大統領の言いなりになって指定した口座にお金を振り込まなければならない。アメリカは「親切なこと」に45日以上程度は待ってあげると言っている。
日本は、大統領が投資先を選定したと通知を受けてから45日以上経過した日に、指定された単一または複数の口座に米ドル建ての即時利用可能な資金を拠出する。
情報BOX:対米投資5500億ドルの覚書、日本が指定口座に米ドルで資金拠出(REUTERS)
木内氏は「日本の将来に投資する資金をアメリカに差し出した」と言っている。
これでは、日本が米国のために都合よく資金を提供するスキームである。本来、日本企業の成長・発展のため、ひいては国民の利益ために存在する日本の政府系金融機関が、米国経済・産業のために資金を提供するスキームとなっているのは大きな問題だ。
日米合意の投資に関する覚書:米国優位の不平等な取り決めに(NRI)
野党に追求を期待したいところなのだが、今回自動車産業が助けられている。立憲民主党・国民民主党ともに連合が背景にいるためおそらく厳しい追求は行われないのではないかと思う。支持母体の利権確保のために既得政党が日本の将来を売り渡したことになる。まさに亡国国会である。
