イランに対する戦争がどのように収束するのかを考えるうえで鍵となるのは、当事国の心理状態であろう。イランは最高指導者を殺害され、「徹底抗戦モード」に入っていることは明白である。一方で、トランプ大統領の心理状態は判然としない。さまざまな発言を総合すると、「極端な敵味方思考」が強く表れている。おそらく混乱の「収束」は難しいだろう。
極端な敵味方思考は、成長過程において誰にでも見られる現象である。典型例が、「良いお母さん」と「悪いお母さん」という分裂した認識である。幼児は「統合された母親像」を持たず、自分を褒めてくれる存在と叱る存在を、敵味方のように分けて捉える傾向が強い。
成長とともに、この二つの像は次第に統合されていく。しかし、何らかの危機に直面すると、この統合が崩れ、「極端な人物評価」が表出することがある。これが老化による統合力の低下なのか、心理的危機による一時的な退行なのかについては、評価が分かれるところだろう。
マルコ・ルビオ国務長官は、急速な事態の進展に対応できず、国際法・国内法に即した理論構築を行えなかった。動揺したルビオ長官は、「イスラエルが攻撃を強行すればアメリカが危機に陥るため、アメリカも攻撃に参加した」と口走り、その混乱ぶりは誰の目にも明らかとなった。
これを受けて、ペドロ・サンチェス首相は「トランプ大統領の行為には正当性がない」と批判した。厳密にはロシアンルーレットだと言っている。一か八かの勝負に世界を巻き込んだということになるが、イスラエルとアメリカがどのように事前準備をしていたかが明らかになりつつあり「ロシアンルーレット」が適切な比喩である事がわかる。
これに対し、トランプ大統領は反論するだけでなく、「スペインとは全面的に付き合いたくないので、貿易を中止するよう命じた」と発言した。ここにも極端な敵味方思考が見て取れる。嫌いな存在は消えてなくなればいいと思ってしまうのだ。おそらくイランに対しても同じような気持ちを抱くだろう。
一方で、キア・スターマー首相もイラン攻撃への不参加を表明している。しかし、スターマー首相はトランプ大統領に好意的な姿勢を示していたためか、トランプ大統領は「スターマーはウィンストン・チャーチルではない」と意味不明な発言を行い、イギリスの非協力的行動を列挙して批判した。
こうした一連の不規則発言は、フリードリヒ・メルツ首相との記者会見で行われた。メルツ首相は困惑したとみられ、会談後にはトランプ大統領の言動に戸惑いをにじませる発言を残している。
仮にトランプ大統領がイランへの攻撃を継続するのであれば、同盟国との協力体制を再構築する必要がある。しかし現状では、「誰が味方で誰が敵か」という判断に意識が集中しており、軍事作戦を統合的に運営できる状態とは言い難い。一度敵と認識すると、徹底的に排除しなければならないと考えてしまう傾向が強まっている。
こうした敵味方思考は、ビジネスの現場では一定程度正当化される場合もある。特にアメリカ合衆国では、その傾向が顕著である。しかし、それが許容されるのは、企業統治が法的に規制され、取締役会の監視機能が働いているからである。つまり、アメリカの企業制度は、トップの暴走を前提に設計されている。
本来の抑制機能としての「超自我」が働いていない以上、それを外から補正する代替超自我が必要だ。
ところが、アメリカ合衆国の政治制度は、大統領の暴走を抑止できなくなりつつある。さらに、国際社会にも「代替超自我」として機能する強力な国際機関は存在しない。宗教的指導者を失い、感情的に高ぶっているイランを完全に抑え込むことは不可能である。今後は、周辺国と連携し、イランの暴発を局地化すべき局面に入っているが、心理的危機にあるトランプ大統領を抑制する仕組みは見当たらない。
つまり「終息」はしないのだから「収束」を目指すべきだが、その前提になる統合が行えない。そしてその原因はトップの心理状態にある。
日本およびアメリカの同盟国は、この構造を前提に、自国の利益確保を図る必要がある。株式市場はすでに「国際的危機」を織り込み、原油価格の上昇や日本株からの資金流出が進んでいる。高市総理勝利後の上げ幅は全て帳消しになったが、高市総理大臣は、「誠実にトランプ大統領と向き合う」という精神論以上の対策を打ち出せていない。
大混乱に陥ったトランプ政権では財務省・ベッセント長官だけがなんとか機能しておりエネルギー関係の混乱を抑えようと様々な政策を打ち出している。
米財務長官、エネ関連で「一連の発表」 原油供給の不安沈静化狙う(REUTERS)
一方で、「大統領が暴走してもアメリカ経済は傷まなかった」という過去の経験から、アメリカ株式市場は値を戻している。「大統領が壊れてもアメリカは壊れない」という前提が正しいのかどうかは、現時点では誰にも評価できない。結局のところ、その答えは今後の統計によって示されるほかないだろう。

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