発言から一夜経って一体何が起きていたのかが整理できた。ホワイトハウスはトランプ大統領が「パパ」になっている崩壊家庭だった。娘であるスージー・ワイルズ氏は得意げに「私はうまくやっているのよ」と自慢するわけだが、聞かされた方は「それって家庭が崩壊しているのでは?」と感じてしまうのだ。今後MAGAに少なくない影響を与えるのではないかと思う。
スージー・ワイルズ氏はおそらく「アタリマエのこと」を話していただけだった。バニティ・フェアの編集者は内心大笑いしてのではないか。それは全く当たり前ではなかったからだ。しかし彼らはワイルズ氏に話を合わせ続けた。
それがわかる一節がある。
同氏は、アルコール依存症の父親のもとで育ったことが「大きな個性」を持つ人に対応する準備になったと説明。トランプ氏は酒を飲まないが、「できないことは何もない。ゼロだ」という考えで行動していると指摘した。
トランプ氏は「酒依存症のような性格」、米誌インタビューで側近(REUTERS)
例えて言えばこんな話だ。近所の娘さんが誕生日会にやってくる。そこで私はこんなにうまくやっていると自慢する。ところがその話を冷静に聞いてみるとなにかおかしい。父親はアル中で娘はそれが当たり前だと思いこんでいる。しかし近所の娘さんは自慢げに「私はこんなにうまくやっている」と自慢げなのだ。
ワイルズ氏が自慢するホワイトハウスには調和などない。まず「アル中のような万能感に浸っている父親」がいる。そしてその父親の歓心を買おうとありと様々な人々が失敗を繰り返している。パムボンディ司法長官はエプスタインファイル問題をうまく扱えず。JDヴァンス副大統領は陰謀論に支配されてきた。
そもそもトランプ大統領は支配的な父親の元で育っている。あとを継ぐことを拒否した長男(トランプ大統領から見れば兄)は徹底的に潰されて不幸な最後を迎えている。つまりトランプ大統領もまた一種の崩壊家庭に育っており「健全な父親」のプロトタイプを持たない。
結果的にご近所は「ワイルズさんのお家=ホワイトハウス」は大丈夫なのかしら?」と大騒ぎになった。この話題はアメリカだけでなく日本でも広く報道されている。しかし、この崩壊家庭はトランプ大統領にとってもワイルズ氏にとってもアタリマエでしかない。そこで「文脈が違う」「悪意がある誤解が広がった」とホワイトハウスは主張している。
しかしこれは誤解ではない。ホワイトハウスのノーマルとアメリカ合衆国一般市民のノーマルがズレているという話なのである。
トランプ大統領は時を同じくして「大きな発表をやるぞ!」とSNS投稿した。ワイルズ氏の一件を上書きしようとしたか、自分の考えに夢中になってワイルズ氏の一件を対したことと思っていないのかはよくわからない。
- Trump to address nation Wednesday night(ABC News)
- Trump announces ‘complete blockade’ of sanctioned oil tankers in and out of Venezuela(ABC News)
しかしこの「外に敵を作って問題をもみ消そうとする動き」は徐々に使えなくなってゆくのではないかと思う。これが支持されるのはあくまでも「私たちと同じ価値観を共有するトランプ大統領」の行動だからこそ正当化される。
この「トランプ大統領は私たちと価値観を共有していないのではないか」という違和感は徐々に広がりつつある。
- まず、チャーリー・カーク氏の問題でトランプ大統領は民主党を激しく罵った。かつてMAGAの人々は「意識高い系」から「無知蒙昧で遅れた人たちだ」と批判されてきたのだから、これは民主党と同じ受け入れられない行為なのだ。
- 次にエプスタインファイル問題で、実はトランプ大統領も女性を搾取する側の「エスタブリッシュメント」ではないかという疑念が広がった。
こうした薄っすらとした違和感が大きな反トランプ運動につながることはないだろう。しかし「トランプ大統領は私たちの側に立って経済問題に立ち向かってくれていない」という不満は徐々に膨らみつつあるようだ。全体では微増した支持率がまた低下したが、共和党の中にも動揺が広がりつつある。
共和党支持者は引き続きトランプ氏を支持しており、全般的な業績を評価する割合は85%と、今月初めと変わらなかった。しかし、経済政策でトランプ氏が好成績を挙げていると考える共和党支持者の割合は最新の世論調査では72%に低下し、今年最低の評価となった。今月初めは78%だった。
トランプ氏支持率39%に低下、経済政策への不満広がる=ロイター/イプソス調査(REUTERS)

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