アフガニスタンではタリバンがイスラム原理主義を国民に強要し西側から批判された。アメリカ合衆国でも同じような価値観の押し付けが進んでいる。ヘグセス国防長官は高位軍人たちに「高い男性としてのスタンダード」を求めた。具体的には身だしなみと体力のテストを行う。トランプ大統領は米軍はアメリカの内側にいる敵を制圧する為に重要な役割を果たすと宣言。「民主党支配地域を軍の訓練場に」と72分間に渡って演説をしたそうだ。軍人たちは無反応でかろうじて抵抗した。
ヘグセス国防長官が主催した訓示は静かな波紋を広げている。ヘグセス国防長官が理想とするスタンダードを軍隊に押し付けようとしているからだ。トランプ大統領もこれに同調し「敵は国内にいる」と宣言。民主党都市は軍隊の訓練場であるとの認識を示している。トランプ大統領によればアメリカ合衆国は「内なる戦争」に直面しているのだという。
そして、「これは内なる戦争だ。国境という物理的領域を管理することは国家安全保障に不可欠だ。彼らを国内に入れるわけにはいかない」と付け加えた。
トランプ氏、アメリカの都市を「軍の訓練場」にすべきと 将官らに演説(BBC)
非常に興味深いことだが日本ではこの話題はほとんど扱われておらず、扱われたとしてもトランプ大統領の極端な発言としてスルーされる傾向にある。ワイドショーレベルの「一般常識」に合致しないからだろう。伝えられるとしても一部放送局に残る「左派的な」プログラムで「民主主義の危機」として報じられるだけである。
一方でBBCはかなり熱心にこの問題について伝えている。アメリカ合衆国の民主主義の変遷は同盟国に直接的な影響を与える。
アメリカ合衆国が内戦状態にあるのかどうかは議論が分かれるところだが、少なくとも議会は完全な機能不全に陥っている。民主党と共和党はお互いを罵り合っている。一応つなぎ法案が2回提出されたそうだが合意には至らなかった。
現在のマスコミの関心は2つある。
- 連邦政府閉鎖が国民生活にどのような影響を与えるか
- 今回の対立でトランプ政権と民主党のどちらがより大きなダメージを食らうか
である。
この対立的文脈の中ではトランプ大統領の「内なる戦争」発言も民主党と共和党で意見が全く異なっている。共和党は単なる切り取りであると発言を矮小化しようとしているが民主党は民主主義の危機を訴える。
本来ならば「統合の象徴であるはずの大統領が対立を煽るのは許されないことである」と思考停止的に結びたいところなのだが、そんなにきれいなまとめ方はできない。そもそも民主主義が自分たちの暮らしを良くしてくれると感じる人が少なくなっている。
今回の連邦政府閉鎖は75万人乗生活に影響を与えると言われているが、他人の生活など知ったこっちゃないという人も大勢いる。だからトランプ大統領の支持率は「岩盤層」を割り込まない。
トーマス・ジェイコブ・サンフォード容疑者とモルモン教会襲撃事件は「左派攻撃」に利用できないことがわかりすっかり忘れ去られている。
トーマス・ジェイコブ・サンフォード容疑者はイラク従軍のあとで薬物中毒に陥ったようだ。ユタ州で生活をしていたときにモルモン教徒の彼女と付き合っておりまりにもモルモン教徒が多かったようである。そしてその彼女と別れたあとでユタ州を離れモルモン教全体に敵意を向けていたことがわかっている。
- Gunman in Michigan LDS chapel shooting was Marine and Iraq War veteran: Officials(ABC News)
- Search for motive in Michigan church shooting puts focus on gunman’s erratic behavior(NBC)
つまり、モルモンの信者が戦争の過酷な体験を癒やすために薬物依存に陥った人を「可哀想に」思い取り込もうとしたが持て余した可能性があるということになる。この事件は退役軍人をどのように社会で包摂するかというアメリカ合衆国が抱える昔ながら問題である可能性がある。
しかし「党派対立と軍の政治利用」が進む現在の政権がこうした「些末」な問題に目を向けるとは到底思えない。また有権者たちもさほど関心を示さないだろう。この程度の銃撃事件はアメリカ合衆国ではもはや「新しい日常」と言っていいほど蔓延している。
日本でも自暴自棄になった人が高齢女性を刺殺し「誰でも良かった」と供述する事例がある。だから「見捨てられた人」が事件を引き起こすのがアメリカ合衆国特有の事例であるなどと主張するつもりはない。
しかしながらアメリカ合衆国には次のような事情がある。
- 共助・公助が希薄ななかでこれまであったコミュニティも政治的に分断されつつある
- もともと自分の道を自分で切り開くべきという「プロアクティブ」な考え方が根付く。
- 「問題解決」を容易にする銃が豊富に存在する。
つまりトランプ大統領が喧伝する「内戦」は、彼の想定外のところで発達しつつあるのではないかと思う。
いずれにせよ一度ティッピングポイントに達した対立は「もう気が済むまでやってください」という以外にないほど盛り上がっている。対立の外にあるBBCはこの問題が終わる可能性は4つあるとしている。Bloombergによるとシナリオ2と3のどちらに転ぶかはよくわからない。分断が進んでおりそもそも世論そのものが割れているからだ。
- 民主党の一部が共和党的な主張に賛同し離反
- 世論調査などで民主党が批判されて抵抗を撤退
- 世論調査などで共和党が批判されて妥協
- 徹底抗戦で双方とも敗北
なお前回の政府封鎖で失われた回復可能なダメージは30億ドルだったそうだ。アメリカ合衆国の経済全体から見るとさほど大きな規模ではない。しかし現在はアメリカの株価は加熱傾向が続いているためこれを見直すような動きは起きるかもしれない。労働関係の統計が凍結されることは決まっておりこれも株価に影響を与えそうだ。
Bloombergは早速政府閉鎖によって投資家がどんな影響を受けるのかのガイドを出している。
迫る米政府機関の閉鎖、金融市場への影響は-投資家向けガイド(Bloomberg)

“大統領が内戦を主導する国 アメリカ合衆国” への4件のフィードバック
初めてコメントします。非常に興味深いサイトですね。
—-
トランプとその官僚はほぼ現代のナチのように振る舞っている。ナチは国民の選挙で正当に選ばれているのだから。またトランプの大統領令の乱発はナチの全権委任法を彷彿させる。
今日の外信でジェーンフォンダが中心となって古のマッカーシー反対運動の現代版を始動したという。
なるほどそんなニュースがあったんですね。「Nearly 80 years after McCarthyism, Jane Fonda relaunches Committee for the First Amendment: ‘The stakes are too high’」。見出しやフレーズだけで結論に飛びついてしまう人もいるので、トランプ政権=ナチという説に単純に賛同することは控えたいと思いますが、まあ共通点は多々あると思います。ただロシアや中国も「対ファシズム戦闘」みたいな言い方をしますから、ラベリングにはあまり意味がないような気もしますね。
コメントありがとうございました。
マッカーシズムの再来に関してはトランプ政権がやってる事自体に関しては
その通りじゃないかと思います、宗教保守が自ら進んで手を貸してるのもほぼ
一緒ですし。ただし今起きているのは当時の反共の為の政治運動ではなく家父
長主義に基づいたものなのでファシズムよりもっと原始的な家産制統治と見た
方が良いかと思います。同様の指摘は春先から色んな方がされている様ですし。
それに現時点では軍部すら屈服させて従わせる対象になってたり富裕層が自分達の
居住区を守らせる為に雇う私兵と同列にしか見てない感が強いですからね。
それに現時点では軍部すら屈服させて従わせる対象になってたり富裕層が自分達の居住区を守らせる為に雇う私兵と同列にしか見てない感が強いですからね。
従業員は家来みたいな感覚なんですかね。