9,100人と考えAIとも議論する、変化する国際情勢とあいも変わらずの日本の行方

トランプ大統領がホワイトハウスでミームコインの晩餐会を主催した。ホワイトハウスの私物化でありあからさまな賄賂なのだが「それでもあまり気にしない」という人も多い。ここではトランプ大統領が大統領職権を私物化していることを議論するのではなくなぜそれが問題視されないのかについて考える。

日本人の議論は「人」に吸着され問題解決や問題解決のための構造分析に興味がないと書いた。では世界はどうなんだ?と憤る人もいるだろう。世界をすべて見るわけには行かないのでアメリカの事例を見てゆく。

トランプ大統領がミームコインの晩餐会を開いた。開催が表明されてから様々な批判が上がっている。しかし、中核支持者たちはあまり私物化を気にしていないようだ。バイデン大統領のときは根拠のない噂まで持ち出してバイデン大統領と次男の私物化を攻撃していた人たちが、トランプ大統領一家のあからさまな私物化を大目に見ている。これは「ダブルスタンダード」ではないだろうか。

そこでQuoraでいろいろな声を集めてみた。

議論を理解するためにまず会合の問題点を整理してゆく。

第一に今回の会合はトランプ氏の親族が運営する白紙委任信託(ブラインド・トラスト)で運用されており大統領職務とは関係がない事になっている。

しかし実際にはブランド構築にホワイトハウスを利用しているだけでなく、大統領と知り合いになれるチャンスを提供している。ユーティリティコインと呼ばれるそうだ。ユーティリティとは「便宜」のこと。

ところが、夕食会の登場は、TRUMPコインはまったく別のカテゴリーに分類されることになった。このやり方は、明確な見返り、つまり大口投資をすれば大統領との夕食会に参加できるというシステムを確立してしまうからだ。そうすることで、TRUMPを実質的にユーティリティコイン、すなわち保有者に何らかの特典や利点を与える資産に変えてしまったのだ。

ミームコイン「TRUMP」のトップ投資家ら、大統領との夕食会に招待へ。米国憲法に抵触か(WIRED)

ABCニュースによれば、この会合の参加者は匿名で外国人も含まれている。

アメリカ合衆国憲法は大統領が外国から強い影響を受けることを恐れており外国、その王や王子からの寄付を厳しく制限している。しかし、トランプ大統領はカタールからの豪華な航空機を受け取っている。また今回のミームコインの会談でも外国の富裕な人たちと接触している。

さらに別の問題もある。今回参加したのは(つまり大統領に接触できる権利を買った人は)220名である。また、投資家の口座をwallet(財布)というそうだが764,000口座は資金を失っており58口座だけが多額の儲けを得ている。大統領親族が儲けるだけでなく一部の人達だけがその恩恵を受けている。

ただし、トランプ大統領が「革命を起こしてくれる」と信じている人もいるようだ。硫黄島に例える人がいた。

Attendee Bryce Paul, in a video he posted to social media, likened Trump’s meme coin gala to crypto’s “Iwo Jima” moment — where attendees would be “raising the flags, behind the enemy lines, right here in the swamp of D.C.”

Protesters decry ‘crypto corruption’ as Trump fetes top investors in his crypto meme coin(ABCニュース)

暗号資産の熱心な信者の中には「経済を支配するFRBのような存在が打倒されるべき」と考えている人がいる。この人は今回の会合を硫黄島(対日戦争での勝利の象徴)と捉えている。つまり既得権に対する戦いが行われており自分は今たしかにその場に立ち会っているのだと考えているのだろう。強い陶酔感がうかがえる。

Quoraで聞かれた声の中には違う意見もある。「自分はトランプ支持者ではないが」としたうえで、アニメの例を持ち出し「意識高い系の運動が過激化しておりそれに辟易した人がトランプ大統領を熱心に支持しているのではないか」と指摘する人がいた。意識高い軽運動が過激化した揺り戻しが来ているのではないかという仮説である。実際に暴力が振るわれたというより「暴力的だと感じた人が多かった」ということなのかもしれない。

興味深い意見を見つけた。

そもそもバイデン大統領が腐敗しているのだからトランプ大統領が何をやってもそれは問題がないと言っている。ただし深堀りしてゆくと「one of them」として扱われることに苛立ちを持っている。みんなと一緒に扱い総括するようなコメントをすると「勝手に決めつけており偽善のにおいがする」と激しく反発している。自分自身で独自の見解を持ちそれが「そのままの形で受け入れられないこと=つまり自分が議論のトーンを支配できないこと」に苛立っているのではないかと感じた。

もちろんこれが「冷静な意見である」可能性はある。

しかし実際の選挙でトランプ大統領が勝っているのだからそこで自己証明は終わっているはずだ。しかし一度何らかの形で傷を負ってしまった人はもはや何を聞いても「強い偽善」にしか感じられなくなってしまうものなのかもしれない。

誰にでも認知の不協和は存在する。しかし自分の認知の不協和を外的に証明しようとすると相手を屈服させるまで収まらない。自分と他人の考えを100%整合させることは不可能だからだ。永遠の闘争状態に陥り自己捕囚化(self imprisonment)に陥るだろう。結果的に孤立を深めさらなる自己証明が必要になる。

一方でこれをマイルドに表現した人もいる。一度「トランプ支持」を表明した以上後に引けなくなっているというのだ。心理学的にはfoot in the doorと呼ばれる手法にかかっているということだ。

つまり協力を要請すると次々と相手の要求を飲まざるを得なくなる。

トランプ大統領はこのあたりのやり方が非常にうまい。

自分は国のことを優先に考えるがバイデン大統領親子はそうではなかったと言っている。さらにホワイトハウスの報道官も大統領は有能なビジネスマンだったしもっと稼げるチャンスはあったが国のためを考えてその機会を自ら放棄した無私の人であると言い続けている。

Trump, addressing attendees at the dinner, said that he always puts the country “way ahead of the business” and added, “You can’t say that about Hunter Biden and Joe Biden,” according to social media posts.

Protesters decry ‘crypto corruption’ as Trump fetes top investors in his crypto meme coin(ABCニュース)

つまりまず信仰告白をさせてしまえば(人によって程度の違いはあれ)その信仰を内的に維持したいという欲求が生まれ大っぴらな私益の追求も問題視されなくなってしまう。そのためには何らかの「悪魔(外の敵)」が必要なのだ。

日本人は人に注目し問題解決に関心を寄せないと書いた。その人は「他人」である。一方のアメリカ人は平常な状況では問題に着目するものの議論が過激化すればするほど「自分の主張の一貫性」に強いこだわりを持つようになると考えることができる。同じように「人」に着目し問題解決に意識が向かなくなるが、それが他者に向くか自分に向くのかが違っているのである。

ではその背景には何があるのか。様々な議論を総合するとそこにあるのは行き過ぎたグローバル化に対する破壊衝動のようだ。

アメリカの中流層はヨーロッパと日本の生産設備の破壊により「世界の工場」の地位を獲得した。しかし豊かになる過程でピューリタニズムを失ってゆく。1970年代にヨーロッパや日本が生産設備を復興させてゆくとアメリカ合衆国はスタグフレーション(インフレを伴った景気後退)に陥った。しかしアメリカ合衆国はピューリタニズムを回復させることなくトリクルダウン(金持ちがまず豊かになりそれが全体に波及する)に依存するようになり中流階級は没落していった。

今、アメリカ合衆国では様々な破壊運動が起きている。当初は非白人系の移民の追放によって低賃金労働者をアメリカから駆逐する運動だったのだが、最近ではヨーロッパに対する光関税、Apple(高級なスマホを作っている)に対する高関税、鼻持ちならない学歴エリートに対するバッシングとしてのハーバード大学いじめなどが行われている。

つまり「アメリカ合衆国はコツコツ稼げる国に立ち戻るべきだ」ということになっておらず「先進的なものが破壊されればいいのだ」という動きが起こりつつある。

トランプ大統領はウエストポイント士官学校の卒業式に参加し次のように訓示を述べたそうだ。新世代の士官たちに「外国は貿易でアメリカからむしり取ろうとしている」との認識を示し「君たちは政権が何をするか注視していなければならない」と言っている。大統領にとって関税交渉は「戦争と同様」ということになる。

  • Then, he moved on to promoting his trade policies, accusing other countries of “ripping off” America.
  • “You have to watch what we’re doing on trade,” he said.
Trump at West Point graduation lauds “Golden Age” as anti-DEI and pro-defense(Axios)

石破総理は関税交渉を通じてウィン・ウィンの関係を築くとしているが幻想であることがわかる。日本は今後この構造変化への対応を余儀なくされるだろうが構造的総括をする力はなく津波や台風のような気象災害のように捉えることになりそうだ。

識者たちは冷静に「アメリカ合衆国でiPhoneを作るのは不可能」と言っている。人件費が高すぎる上に精密な部品が作れないためだ。本当に問題解決型の議論が行われていればアメリカ人は再びピューリタニズムを取り戻し製造業大国として復権すべきだと言ういう結論になりそうだが、そうはなっていない。

次々と自分たちが不当な競争にさらされているという被害者意識に彩られた議論が行われており相手を叩き潰すまで戦いはやめないと言っている。

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