気づいたときには遅かった。当ブログでは何回も懸念してきた悪いシナリオが現実のものになった。赤澤大臣が「官報の内容と合意内容が食い違っている」と慌てている。9回目のワシントン訪問を実施したが、赤澤氏がどれほど騒ごうが「赤澤さんの言っていることが正しい」というエビデンスなどない。
唯一外れたのは「政治家がポンコツでも最後は外務省と経産省がなんとかするだろう」という見込みだった。
Bloombergは「交通事情が違う日本がピックアップトラックなんか買いますかね」という趣旨の記事を出している。合意内容が曖昧でトランプ大統領がいうほどの成果が得られていないという意味になる。
日本側では同じインタビューの別の箇所が強調されている。トランプ大統領は日本からいつでも80兆円を引き出すことができると主張している。10%だけを返済すればいい極めて有利なクレジットカード・ローンで日本というATMからいつでもお金を自由に引き出すことができるという内容だ。気に入らなければ同意なく一方的に関税を上げればいい。
関税の内容も赤澤氏の理解とアメリカの理解が食い違っている。赤澤氏は「ヨーロッパと同じ内容になる」と聞かされていたようだが、官報に書かれた記述は食い違っていた。関税は本日発効。
石破総理は今回の合意内容に責任を持って取り組むとしていたが、国際ビジネスに詳しい人達は「何だ、石破総理は国際ビジネスの契約概念も知らないのか」と気がついたことだろう。
業界が狭いムラを形成する日本では口約束による契約が成り立つ。長期的信頼を損ねればムラで食って行けなくなる。しかしアメリカ合衆国は契約社会。文書で合意を残し気に入らなければ裁判になる。石破総理も赤澤大臣も日本的なムラに住んでおりビジネス契約などやったことがなかったということがわかる。
つまり石破総理が「責任を持って最後までやり遂げる」と主張しても実際にはそもそもそんな能力はなかったということ。
とはいえなぜ外務省も経済産業省もそれを止めなかったのかという疑問は残る。彼らもまた国際契約実務を知らないかあるいは石破政権を見限っているかのどちらかなのかもしれない。
いずれにせよ日本はこの「合意なき合意」を政権担当者が結んでしまったという事実と向き合わなければならない。石破政権はかなり国益を損なう取引をアメリカと結んでしまった。
その意味ではポストモーテム(死後検証)だけをさっさと済ませて実務能力を持った内閣に仕事を解放すべきであり、野党が石破政権の延命に力を貸すことは国益を損なう「国賊行為」と言ってよいだろう。

Comments
“合意文書なき合意が打ち砕かれる 赤澤大臣が9回目の訪米” への4件のフィードバック
今回の合意文章の記事を読んだとき、朝日新聞で読んだ記事(有料なので一部しか読めない)のなかに、「ある政府関係者は「交渉の基本は、自分が取るものははっきりさせ、自分が差し出すものはあいまいにすることだ」と解説し、合意文書をまとめることに意味はないと強調。」という文章がありました。それを読んだときは、その政府関係者の考えたにあまり同意は出来なかったし、トランプ大統領相手に通じると本当に思っているのなら、相手のことをよく見ていないのだろうなと思いました。
それと、とあるnoteで合意文章がないことがトランプ大統領側にとって必用なことであると書いてあるのを見ました。政府関係者の中にも、同じように考え危惧していた人もいたはずだと思います。しかし、残念ながらムラは合意文章を作らないことに決めたようですね。
日米合意文書、作るのまずい? 赤沢氏「損失10兆円回避」の根拠は
https://www.asahi.com/articles/AST7X2QDHT7XULFA00GM.html
日米関税交渉「合意文書」が出せない真相解明ートランプ大統領にとって公式合意がタブーな理由
https://note.com/yoshihiroasakawa/n/n85137f5656da
合意文書を作っても揉めるらしいのですが、そもそもアメリカの現在の意思決定の仕組みがズタボロになっているという理解がなかったんでしょうね。第一期政権を通じて「トランプ政権ってこんなもんだろう」という漠然とした了解もあったんでしょうし。
言われてみれば、文章というのは問題を起こさないためでなく、問題が起きた時に争点ををはっきりとさせるためのものでしたね。リンク先のコメントでも書かれているように、不毛な水掛け論をある程度防げるだけでも効果は大きいですよね(まぁ、力で無理やにねじ伏せられたら意味はないですが)。
日本側には「どうせ自分たちは打たれっぱなし」で相互解決なんかできないという気持ちがあるんでしょうね。交渉という意味では最初から負けている。