高市早苗総理の支持率は極めて高い。この支持率について考えると「誰も自分が変わることを望んでいない」と言う皮肉な事実に突き当たる。
維新を脱会した3人が自民党との「連立」に加わった。もともと維新が性急に自民党に接近することに危機感をもっており「改革色が薄れる」ことを警戒していたとされるが、高い支持率を目の当たりにして考えを変えたようだ。吉村代表は本来なら議席を維新に返すべきであると主張しているそうだが、それ以上の行為(例えば連立離脱など)には踏み込まなかった。それよりも政策実現を優先させたいというのが維新のスタンスのようだ。彼らもまた既得権化しており徐々に現実に取り込まれつつある。
そもそも奪回組の説明も単なる言い訳なのだとは思うが、ここではあえて触れないことにする。大した問題ではないからだ。
そもそも維新の「改革」とはなにか。それは既得権の打破だと説明される。もう少し詳しく見てゆこう。
例えば医療費削減は重要なテーマだが彼らが選んだのは高齢者が依存しているOTC類似医薬品の削減である。また身を切る政治改革も大阪の選挙区を守りつつ比例の削減を先に進めたいと考えている。維新のライバルである公明党などに損害が大きい。
つまり維新は「自分たちの既得権を守りつつ(自分たちは変わらずに)相手から何かを奪ってくる(誰か別の人を変える)」ことを改革と言っている。当然これに反発する人たちも出てくるが、維新は彼らを「抵抗勢力だ」と主張し自分たちにはもっと力=議席が必要だと訴える。
ここから高市総理の支持率が高い理由がわかってくる。高市総理は高い支持率を誇っている。だが国民は現状に満足しておらず少子高齢化による不安やインフレの影響などを心配している。つまり「日本が変わること」は求めている。
だが誰も自分たちから率先して変わろうとは言い出さないのだから、「自分たちは変わらずに相手が変わってくれる」ことを望んでいる可能性が高いことになる。もちろん世論調査でこうした実態が示されることはないが、支持率が高いということは「みんなが誰か別の人が変わることを望んでいる」ことになり、それはすなわち「日本は変わらない・変わりたくない・変わると損をする」可能性が高いことの裏返しなのである。
論理的に考えると。高市総理は高い支持率を維持しつつ同時にみんなの希望を満たすことはできない。誰かの希望を満たすことは誰かの失望につながるからだ。
ここから論理的に導き出される高市政権の生き残り戦略は先に希望をつなぎつつ何もしないことである。
しかしながら、高市政権は内部に維新と維新奪回組を抱え込んでしまった。特に維新は連立政権に居る理由を示し続けるための理由を高市政権が提示してくれることを声高に求め続けるであろう。現実的な理不尽が積もれば積もるほど声高にそれを主張することになりそうだ。
ここからもう一つわかることがある。
それは「変わること=損をすること・失うことである」という固定観念の絶望的な強さである。
考えてみると我々の社会は1990年代以降に成長を経験しておらず「変化=失うこと」だった。1960年代・1970年代生まれはかろうじて経済成長時代を知っている。またアメリカ合衆国の滞在経験がある人も「先んじて変化を起こすことが成功の鍵である」と知っている。このため「変化=失うこと」という思い込みの強さがなぜ生じたのか不思議に思うこともあるが、少なくとも我が国においてはこれはゆるぎのない事実のように扱われる。
いずれにせよ高市政権で起きている「自分が変わるために誰かを変えたい」という願望は高市総理への高い支持率につながり「自分が変わること=負け」という固定観念を社会的に強化している。結果的に我々は変化を恐れ続け、前回分析したような高市総理のトラス化・リーヴス化を進めるのである。
構造改革以前に心理的呪縛を解く必要があるという結論だが、我々日本社会はこれに気がつけるほど十分に合理的で理性的なのだろうかとついつい考え込んでしまう。答えは人によって様々なのかもしれないが……

Comments
“偽りの改革 高市早苗総理の支持率が高い皮肉な理由” への4件のフィードバック
個人的には「自分の方に歩み寄ってくれる」願望が非常に強いのもある気がします。
ネット見てると自分の趣味嗜好から価値観まで丸々肯定してもらいたがってる
人が目立ちますし。
でもそう言う人って主導権握れてない(と思い込んでるのも含む)事が多いんで
それを上手く囲い込んだり扇動したりして自己肯定感を与え続けられる人が現れると
大変厄介なんですよね。匙加減次第では主導権握られて「自分たちの方が正しいのだ」と
大手を振って闊歩される状況になってしまいますし。
ありのままの私を受け入れてくれるって感覚ですかねえ。なんとなく政治というより宗教になっている気がしますが「アンデンティティ政治」ってそういう危うさはあるのかもしれない。
特に序列意識やマウント願望が強い人はより惹かれるでしょうね。力のある人の
後ろ盾さえあれば人を支配する快楽を味わい放題だってなるから。
この欲望は性欲とは違って年と共に衰える事も無いから本当に厄介です。
ひどい場合は強化されますからね。