アメリカの対イラン攻撃が「不毛さ」の度合いを増している。これは単なる軍事衝突ではない。アメリカ合衆国がいまだに「文明の衝突」を乗り越えられていないことを示す事例になりつつある。特に国際展開を考える企業のリーダーは、この問題を単なる戦争の勝ち負けとしてではなく、複雑な相互理解の欠如がもたらす構造的な問題として認識する必要があるだろう。
今回の戦争に関する情報はアメリカ合衆国経由のものが多く、イランは内情がわからないブラックボックスとして扱われる。これが不透明感の一つの原因になっている。
このため、まずイランの概況をお伝えする。イランの指導者はほぼ決まりになった。決まってはいるが発表できないと伝えられており、様々な憶測が飛び交っている。暗殺を恐れているという説もあるが、そもそも最終発表できないということは、つまりまだ合意形成ができていないと考えることもできる。合意形成ができないまま発表が遅れれば、イラン内部で権力闘争が激化する可能性は否定できない。内戦に発展しかねない危険な動きだ。
イラン次期最高指導者、ほぼ合意形成=専門家会議メンバー(REUTERS)
イランの独特の読みにくさは、合理層と非合理層が独特の形で入り混じっている点にある。ペゼシュキアン大統領は近隣諸国に謝罪したが、「攻撃を控える」という路線は修正している。内部で強い押し返しがあったようだ。
ペゼシュキアン大統領は聖職者でもサイイェドでもない。血統的にはアゼリとクルドの伝統を引いているため、ペルシャ人が多数派のイランでは最高指導者として十分な影響力を行使できない可能性がある。外交的に合理的な選択をしたとしても、国内政治では影響力を持ちにくいのだ。イランが神権政治をさらに推し進めれば、当然イスラエルとアメリカにとっては攻撃の口実となる。
戦争の情報は専門家に聞くのが一番だ。しかし「日々の意思決定」が必要なビジネスリーダーは専門家がわからないと言っているから「はいそうですか」というわけにはいかないだろう。しかし国際情勢を読み込むに当たっては「イラン的イスラム」という特殊な状況を理解しなければならない。そしてこれがなかなか難しいのだ。
アメリカ合衆国もかなり危険な状態になっているが、こちらはビジネス的常識があればなぜ混乱しているかが読み解きやすい。
アメリカ合衆国では、ボードや株主総会の統制も機能しないなかで「破綻したカリスマ経営者」による、サンクコストの積み増しが続いている。第82空挺師団が訓練を中止したという情報がある。核兵器の開発につながりかねない「物質」を短期間で奪還する作戦に傾いているようだ。
- U.S. weighs sending special forces to seize Iran’s nuclear stockpile(Axios)
- Cancellation of Army exercise fuels speculation about Mideast troop deployments(WP)
すでにアメリカ合衆国は最初の100時間で37億ドルの費用を埋没させており、6名の死者も出ている。つまり費用を正当化するための成果が必要だ。もともとトランプ大統領は「体制転換」を成果としたかった。それがかなわないと分かると、「ほとんどの指導者が消えてしまったため話し合いは不可能だ」として無条件降伏を求める姿勢に変えた。しかしイランが無条件降伏を否定すると、「無条件降伏の定義を決めるのはトランプ大統領自身である」と、さらに態度を変えている。さらに今では「全指導者が排除されるべき」と言っている。
- トランプ氏、イランとの交渉「関心ない」 全指導者排除を示唆(REUTERS)
- Iran’s next supreme leader won’t ‘last long’ without my approval, Trump says(ABC News)
しかし、地上波部隊の投入と核物質探しに主眼が移りつつ中、この発言を額面通りに受け取るべきではない。
おそらく、自分が一方的に無条件降伏を宣言してもアメリカ国内の世論は納得せず、MAGAを満足させることはできないと気づいたのだろう。だからこそ「核兵器開発につながる物質(それがなんであれ)をイランから完全に取り除いたのだ」と宣言したいのだと思われる。
しかし、そもそもイランの核開発能力は2025年6月に完全に取り除かれたことになっている。またアメリカ合衆国が探している「物質」が本当に存在するのかもよく分かっていない。イランは日本の4.4倍の面積を持つ山がちな国土を擁しており、「物質」がどこにあるのかも分かっていない。
トランプ大統領としては「最小限の犠牲」で「大きな成果」を得たいのだろう。しかし、すでに支払った埋没コストを取り返すために小規模の支出を繰り返し、損失が拡大するというのは、デスマーチプロジェクト(破綻に向かって突き進む失敗型の計画)の典型である。
アメリカ合衆国の根本的な弱点は、「自分たちの様式を理解できる政権としか話ができない」という点にある。基本的にイスラムを理解できないし、理解するつもりもない。
元統合参謀本部議長のマレン氏は、イラクやアフガニスタンの事例を引き合いに出し、「アメリカ合衆国が関与する政権交代は大きな混乱を引き起こすだろう」と述べている。インタビューは長年国防総省を取材しているマーサ・ラダッツ氏のもので見応えがある。軍や専門家は、構造的理解ができているかどうかは別にして、「経験的に」民主化アプローチが中東や中央アジアでは成り立たないことを理解している。
しかしエスタブリッシュメント排除はアメリカ国民の多数派の願望だった。結果としてアメリカ国民は過去の失敗から学ぶことなく、サンクコストをさらに積み上げようとしている。
「文明の衝突」はサミュエル・ハンティントンの1996年の著作だが、アメリカ合衆国はいまだにこの問題を克服できていない。
アメリカ合衆国が「文明の衝突」を乗り越えられない場合、相手社会の政治構造を誤読し、交渉主体を見失い、戦争目的を曖昧にしたまま軍事行動を続けることになる。特にイランがペゼシュキアン体制ではなく神権政治体制を強化した場合、その傾向はさらに強まるだろう。イランではイスラム宗教権威、ペルシャ系部族集団や各民族集団、小規模のバザール商人、そして軍産業共同体でもある革命防衛隊の利害調整が必要であり、西洋的な合理主義者がリーダーになる保証はない。
このため「交渉のインターフェイス」が作られない限り、戦争(今回の軍事作戦を何と呼ぶかは別にして)は合理的な戦略ではなく、サンクコストの積み上げによって継続されることになるだろう。
さらにこの不毛な戦争は、「もう一つの文明の衝突の当事者」であるロシアを巻き込み、終わりのない泥沼へと発展する可能性がある。
アメリカ合衆国が「西半球」に引きこもろうとしていたとき、当ブログも含め我々はそれをアメリカ合衆国の内向き化の象徴として批判してきた。しかし文明理解がないまま中央アジアに手を突っ込む今回のシナリオは、考えうる中でも最悪のシナリオの一つと言えるかもしれない。

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