このところバンス副大統領に注目が集まっている。イラン情勢について目立ったコメントがない。つまり「語られないこと」が注目されている。次世代の共和党を担う存在として、「バンスが何を考えているのか」を知りたがっている人が多い。
そんなバンス副大統領の思想を紐解くうえで重要なのが、長年彼を支援してきたピーター・ティールという企業家とピーター・ティールに影響を与えたのが、ルネ・ジラールという哲学者・思想家である。しかし、アカデミアの議論ではないため、「引用」はありつつも思想にかなりの変質が見られる。このため最終的に「この思想」がどのようなもので、どこに向かうのかは明らかではない。
ルネ・ジラールは、第二次世界大戦で混乱するヨーロッパで青年期を過ごした。文学研究の中から、人類には人と同じものを欲しがる性質があり、やがて皆が同じものを欲しがるようになる(ミメーシス=模倣的欲望)と考えるようになる。最終的に競争が激化すると内戦状態が起きるため、それを防ぐために「犠牲=生贄」を作ってきたと考えた。ところがキリスト教の広がりによって生贄を作ることが難しくなると、「かえって暴力が蔓延する」と考えるようになった。
PayPalの共同創業者としても知られるピーター・ティールは、スタンフォード大学でジラールの教えを受けたことがある。そしてジラールの思想に影響を受け、独自の宗教観を育んでいった。この過程でリベラルな考え方は「反キリスト的」であり、世界を不安定にすると考えるようになったようだ。彼の主張には、国家はエリートが責任を持って統治すべきだというテクノクラート的な思想が含まれている。
非常に厄介なことに、ルネ・ジラールが最終的にアメリカの民主主義についてどのような考えを持っていたのかは、はっきりしない。ただ、晩年にアメリカ合衆国の現状に強い危機感を抱いていたことは確かである。そしてティールがどの程度ジラールの思想を忠実に理解していたのかも、よくわからない。学術論文のような正確な引用や定義がないからである。
ただ晩年のジラールはティールを一定程度認めており、ティールも財団を作ってジラールを金銭的に支援していた。つまり「正統な継承者」であるかどうかは別として、二人の間には確かなつながりがある。そして、ティールが支援したのがバンス副大統領だった。
バンス副大統領はアパラチアの貧しい崩壊家庭から抜け出すために軍に志願したが、そこで「エリートの横暴ぶり」を目の当たりにし、法曹界を目指す。一時はオバマ大統領に強い憧れを抱いたが、やがてトランプ大統領の支持に転じている。精神的にはティールの影響を受けており、カトリックに改宗している。
バンス副大統領は次世代の共和党を担う有力なリーダー候補とみなされており、『ヒルビリー・エレジー』の体験から「忘れられた中間層」への訴求力も強い。それだけにバンス副大統領が、トランプ政権を穏健化させるのか、それともより過激な「別の何か」に転じさせるのかに注目が集まっているというわけだ。
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