世界中で嫌われているトランプ大統領の一方的な関税通告だが意外な国が歓迎の声明を出している。40%の関税をかけられたミャンマーが喜んでいるそうだ。
このミャンマーの事例はトランプ政権が関税において一貫した合理的な外交戦略を持たないことを示唆している。
AFPやCNNがミャンマー軍政がトランプ関税通告を歓迎していると伝えている。関税率が低かったのかと思ったのだがそうではなかった。関税率は40%である。ミャンマー軍政はこれを20%に下げてほしいと考えているようだ。
ではミャンマー軍政は一体何を歓迎しているのか。
これまでミャンマー軍政はアメリカ合衆国から交渉相手とは見なされてこなかったが通告書をきっかけに「政権として認知された」と主張している。実際にトランプ政権が軍政を認めたかどうかは不明。
西側は軍政下のミャンマーで民主化運動を行っていたアウン・サン・スー・チー氏を支援してきた。民主主義陣営に組み込みたいという狙いがあったのだろう。2015年の選挙で勝利すると憲法上は大統領になれないアウン・サン・スー・チー氏が事実上支配する政権が作られた。
欧米の期待とは裏腹にアウン・サン・スー・チー氏は独裁傾向を強めロヒンギャ虐殺に関わっているものと考えられている。
西側は明らかに戸惑っていたがこれまでの経緯から事実上のアウン・サン・スー・チー政権を批判できずにいた。
ながら結果的にミャンマー軍がクーデターを起こしアウン・サン・スー・チー氏は権力を追われることになった。その後も軍政は各地を掌握しきれておらず混乱が続いている。西側はミャンマーを扱いかね「国際的に放置された」状態が続いている。さらにウクライナやガザの問題が積み重なりミャンマーどころではなくなってしまった。
今回軍政がトランプ通達を歓迎しているのは「通達を通じて正式な交渉相手として認められた」と主張できるからである。トランプ大統領のロジックに従えば関税という参加費を支払えばアメリカ合衆国という魅力的な市場に参加できる事になっている。このため軍政側は関税の引き下げを求めて交渉団を送りたい。
さらにトランプ大統領が自分たちの国の選挙は盗まれたと指摘している点についても好意を持っている。アウン・サン・スー・チー勢力が選挙を盗んだと考える軍政との共通した考え方だ。
当初から指摘されているようにトランプ関税政策は外交交渉としては破綻している。そもそも自分たちが認めてこなかった政権に対して正統性を保証することなどあってはならないことだ。最近では閣僚との間の手柄争いになっているという指摘も見られるようになった。このプレゼンテーションは「トランプ大統領と直接交渉すべきだ」としているのだが、トランプ大統領が落とし所を決めて交渉に臨んでいるとも思いにくい。
このように関税交渉が混乱する中で各国とも「不利な前例になって他の国から恨まれたくない」と考え始めているようだ。EUとの交渉もまとまるものと見られていたが土壇場で継続審議となった。EUも報復関税の期限を延ばして時間稼ぎをするものと考えられている。
そもそも閣僚の間に共通する目的意識が見られず大統領も何を考えているのかわからない。通告書も外交文書としては極めて稚拙なもの。結果的に企業は次世代の投資計画を立てることができなくなっている。
