維新の議員定数削減提案が破綻しかけている。吉村洋文(よしむらひろふみ)維新代表はこれをどうやって乗り切るのだろうかと思っていたのだがあっさり容認した。日本の政治がナルシシズム型に移動していることを正確に見抜いているようだ。ただしこうした無責任型の政治の蔓延は日本にとっては明確な停滞要因となるだろう。
吉村洋文代表は「議員定数削減が実現しなければ連立を離脱するのか」と質問した田崎史郎氏の質問に答えず「とにかくやるんです」の一点張りだった。このやり取りは維新には離脱カードはないということを意味していたのだろう。
テレビで不退転の覚悟を表明したのだから「軌道修正は大変だろうなあ」と考えたのだが心配は無用だったようだ。
ニッポン放送のラジオ番組でゴールポストを「議員定数削減の実現」から「高市総理が真摯に約束を守ってくれた」とずらしてしまった。
吉村氏は番組で、定数削減に関し、連立政権合意書には「臨時国会に法案を提出し、成立を目指す」と記されていると指摘。「維新と自民党で法案を出したということは、連立合意の約束は守ってもらっている(ということだ)。高市早苗首相は約束を守り、自民をまとめてくれたと思っている」と語った。
維新の吉村代表、連立離脱に否定的 定数削減「約束守ってもらった」(時事通信)
考えてみればこれは自然な流れだ。大阪が実質的に成功する見込みはない。そんな閉塞感漂う大阪に最適化したのが「夢を売る」維新だった。
繊維産業の中間工程は中国などの外国に流出し、家電産業も中国、台湾、韓国に敗れつつある。大阪の産業的地位は長期没落傾向だがそれを回復する手段は見つかっていない。
大阪は「大阪はかつては日本の経済首都であった」という栄光の記憶を拠り所にし「行政機構を東京のようにすれば=つまり都にすれば」気持ちの上では東京のようになれるとメッセージをすりかえ、大阪の有権者に受け入れられた。
さらにこの都構想が破綻すると大阪は「日本の副首都にふさわしい」とメッセージが再度変わっている。
大阪府民は薄々はかつての栄光が戻ってこない事はわかっているが、その現実を受け入れたくないため、輝かしい未来(=東京みたいになる)を掲げ続けてくれる吉村・維新を積極的に応援していると考えることができる。
つまり吉村維新は高市政権と極めて「親和性が高い」ことになる。目のまえにあるどよんとした問題はすべて他人の問題であって自分たちは心のなかにある美しいなにかに向かって進んでいると信じ続けることができるからだろう。吉村代表は現実を誤魔化しているのではない。テレビで夢を売り続けているのだ。
こうしたナルシスティックな政治期待はすでに「サナ活」と呼ばれる信者を獲得しつつある。これまで「日本はダメダメだ」とうんざりしていた「幅広い世代の女性」たちは高市総理のファッションを分析し真似をしていると読売新聞の大手小町(おおてこまち)が指摘している。
日本の憲政史上初の女性首相となった高市早苗さん。各種世論調査で支持率が80%を超え、“高市ブーム”の様相を呈しています。高市首相に共感して愛用品やファッションをまねることを指す“サナ活”というワードも生まれています。幅広い世代から注目される“高市流ファッション”について、ファッションジャーナリストの宮田理江さんに分析してもらいました。
若い女性に「#サナ活」ブーム…高市首相のファッションをプロが分析(読売新聞)
さらにアメリカの経済雑誌フォーブスが世界で最も影響力のある女性100人の第三位に高市総理を選んだ。フォーブスが何かを知らない人たちも「アメリカのすごい雑誌で高市さんが評価された」と考えるのではないか。
もはや政治が問題を解决してくれるとは思っていない人たちは、せめてぱっと明るい気分に浸るために政治を利用している。残されるのは問題を解決しようとする「どよんとした」人たちと問題そのものだけ。積極的に問題解決しようとする人たちが重んじられることはなさそうだ。
なお維新では吉村さんが「キレイ」を担当する裏で、どよんとした政治は藤田文武(ふじたふみたけ)さんが担当している。維新は公明党・国民民主党の企業献金問題に賛成の姿勢を示した。時事通信の記事は「自民党を牽制している」と解釈しているようだが、最後まで「頑張った」姿勢を見せたいのかもしれない。

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