Bloombergが「FRB議長が交代しても金利上昇は止まらないのでは」と書いている。背景には構造的な変化があり、ドルの一強体制の終わりを感じさせる。アメリカ合衆国はこうした構造的変化に気が付かない。むしろジタバタと暴れることでフラグメンテーションが加速しているように見える。
Bloombergが「金利上昇が止まらない」という記事を書いている。様々な状況が複合的に作用し結果として金利が上昇するという予測。非常に複雑な記事で「原因は一つではない」ようだ。
当初この記事を読んだときには一強体制が終わるからドルの資産価値は下がるのではないかと思った。そこでChatGPTに要約させてみたのだがChatGPTは賛同してくれなかった。一強体制は終わりつつあるが、アメリカ経済の好調は続くだろうという。そして金利上昇という側面に注目するならばむしろ「好調さ」のほうが金利上昇の主原因なのだという。
実に気に入らないまとめではあるが、論理的には理にかなっている。
これまでアメリカ経済を支えてきた構造(基軸通貨を持っているため安く資金が調達できた)がなくなりつつある。このため今後は借金に頼った経済は成り立たなくなるだろう。こうなるとアメリカも不景気になるのではないかと予測したくなる。だがそうなっていない。アメリカの経済は絶好調である。
なぜそんな事になっているのか。それは富裕層や中間所得者の上の方の人たちが財産の蓄積を持つ「貸し手」の側に回っているからである。彼らは当然ながら住宅も持っている。
つまり金利上昇には
- 短期的に強い経済
- 長期的なアメリカ合衆国とドルの地位の没落
という2つの状況があり短期的に強い経済のほうが金利上昇の主要因となっている。
中長期的には持続可能性がない事がわかっているため「実に様々なことをしている」のが現在のアメリカ経済である。
例えばトランプ大統領は富裕層に減税を行った。これは短期的に強すぎる経済を加熱させることになる。さらにFRB議長に圧力をかけて金利を下げさせようとしている。これも短期的に強すぎる経済を加熱させることになるだろう。しかし大きな流れは金利上昇に向かっているのだからFRBがいくら金利誘導を行っても「焼け石に水」になる可能性が高い。中間層と低所得者は置いてゆかれる。
政府には資金がないためこれを外国に肩代わりさせようとしている。強いアメリカ市場に参加したければ「ショバ代」を払えという。日本政府は合意文書を作らないことでなんとか事態を有耶無耶にしようとしているようだが、おそらくそうならないだろう。連邦政府が補助金を与える代わりに中間所得者に対するバラマキの原資が必要になる。ラトニック商務長官もベッセント財務長官もそのための取り立て屋にすぎない。このトランプ大統領の「政策」は中長期的にアメリカの同盟関係を破壊し、ドル一強体制の終わりを加速させるだろう。
この状況が続くと富裕層はますます富み栄える一方で中間所得者の下の方の人たちと低所得者は借金に苦しむことになる。中間所得者の上の方の人達も実は自転車操業状態に落ちっておりクレジットカードの滞納率も増えている。ホワイトカラーのAIへの置き換えも進んでおり仕事を見つけるのが難しくもなっているようだ。また金利が高止まりすると下の方の人たちと若者は家が買えなくなる。アメリカンドリームの扉は彼らの前でパタリと閉じてしまったようだ。
では二極化が進展すると何が起きるのか。もともとアメリカ合衆国は小さなコミュティの寄せ集めに過ぎなかった。最初はイギリス国王と対抗するために大統領に強い権限を与える。南北戦争を境に「マニフェストデスティニー」という神に与えられた使命があると考えられるようになる。第二次世界大戦を境に自由主義と自由貿易を守り抜くという使命に変質していった。
トランプ大統領の一連の政策はこの拡張したマニフェストデスティニーの破綻を意味している。その意味ではトランプ大統領の登場は原因ではなく結果である。
そんなトランプ大統領だが中間選挙で自分を支えるために共和党の勝利を必要としている。アボット州知事に働きかけ下院の区割りを変更しようとしている。アメリカはモザイク状になっているので区割りを変えて部分的にある民主党が強い地域を共和党の強い地域に組み込めば選挙結果に介入ができる。テキサス民主党が反発し州の外に逃亡したため「民主党議員を逮捕して議場に連れ戻せ」というところまで事態が悪化している。当然、民主党州はこれに反発。仕返しとしてニューサム知事はカリフォルニア州の区割りを民主党優位に変更しようとしている。
アメリカ合衆国は分厚い中間層を支える「使命」を見出しにくくなっている。当然残るのは断片化したコミュニティだけである。しかし選挙のルールは多数派が握っているので当然多数は有利の区割りが行われそれが更に断片化を加速させることになる。
その気になれば財産税のテーブルを操作して民主党地域から人を追い出すようなことも可能だ。民主主義なのでルールさえ作ればそれに従わざるを得ない。
政治が分極化されると全ては「政治的陰謀」と結びつけて捉えられる。今や雇用統計までもが「政治的な陰謀」として語られる。政府統計は当てにならないため意思決定が不安定化しFRBもなかなか金利を下げられない。
こうしてトランプ大統領はドル一強体制を終焉させる原因になりそうなのだが、どいうわけかアメリカ合衆国の経済は更に加熱し世界中から富を引き付けている。本日のダウは585.06ドル(+1.34%)だった。雇用統計の伸び悩みが、利下げが近いとして「好感」された。
