アメリカ政府が合理的な行動を取らなくなったことで、ChatGPTも混乱している。アンソロピックが戦争協力を拒否した隙を狙ってアメリカ合衆国政府と契約を結び、その後キャンセル運動が起きているだけに、「事態を矮小化しようとしているのではないか」と疑いたくもなるが、証明はできない。
背景にある事情は複雑であり、ChatGPTが「合理的収拾」に失敗し、安全装置を暴走させる理由も理解できる。
それくらい今のアメリカ合衆国は混乱しているのである。
実はトランプ政権内には、「トランプ大統領が戦争をやめてくれるだろう」と期待していた人々がいる。おそらく彼らは今、「裏切られた」と考えているが、それを口にできずにいる。
国家対テロセンター(NCTC)のジョー・ケント局長が辞任した。黒井文太郎氏は彼を「陰謀論者として知られている」と紹介している。
しかし、ケント氏が陰謀論にまで踏み込んでアメリカ合衆国の介入主義に反対するのには理由がある。最初の妻で暗号解読の専門家であるシャノン・ケント(Shannon Kent)氏が、シリア勤務中にISISのテロに巻き込まれて亡くなっているのだ。
As a veteran who deployed to combat 11 times and as a Gold Star husband who lost my beloved wife Shannon in a war manufactured by Israel, I cannot support sending the next generation off to fight and die in a war that serves no benefit to the American people nor justifies the cost of American lives.
“No imminent threat”: U.S. Counterterrorism Center head resigns over Iran war(Axios)
彼と親しいトゥルシー・ギャバード国家安全保障長官も、戦場で死傷者を数える任務に就いていた経験がある。兵士たちに死を覚悟させる「IS TODAY THE DAY?(今日はその日か?)」というスローガンは、後に彼女の著作のタイトルにもなっている。彼女はまともなやり方ではテロは止められないと考えるようになり、テロ対策に強い国家権限を駆使したロシアのプーチン大統領に傾倒していった。
また、J.D.バンス副大統領も「戦争はワシントンDCのエスタブリッシュメントが引き起こした」と考えており、本音では不介入主義者であるはずだ。
ジョー・ケント局長の辞任後、長時間にわたって議会で証言したトゥルシー・ギャバード国家安全保障長官は、イランが差し迫った脅威なのかと問い詰める議員に対し、最後まで「差し迫った脅威だ」とは認めず、それは大統領が判断することだと言い続けた。
- Gabbard defers to Trump when asked if Iran posed “imminent threat”(Axios)
- イラン政権は「変わらず存続」も「弱体化している」 米情報機関トップが見解(BBC)
そんな中、情報機関は「中国は2027年までに台湾へ侵攻する能力を持っておらず、むしろ日本が方針を転換した」とのレポートを出している。
これまでであれば、「インテリジェンスの専門家が出した結論なのだから、それなりの根拠があるだろう」と受け止めることができた。
しかし今や、「アメリカ合衆国が日本に巻き込まれ、台湾有事に加担させられる」と信じている人々が個人的な思惑から方針を転換したのかもしれない、と考えてしまう。なにせインテリジェンスの中枢にいる人達は「陰謀論を導入してでも個人的なトラウマ体験を克服したい」と考えているような人たちである。
ChatGPTは、「アメリカ合衆国は専門家集団によって支えられた国家である」とみなす傾向があり、さらに「何も知らないユーザーは情報を十分に検討しない」という前提を起き」、過度に安全装置を働かせる。実際には、アメリカ合衆国そのものが合理的な検討を行えなくなり、情報ソース自体が混乱している。にもかかわらず、新しい状況を学習せず、「ユーザーが混乱しているせいだ」と判断してしまうのである。
裏返せば、現在のアメリカ合衆国はそれほどまでに混乱しているということになる。
一方でヘグセス国防長官は、敵を打ち倒すためにはさらに2000億ドルが必要であり、「その数字も変わるかもしれない」と主張している。「押してごらん」と差し出されたボタンを押してしまうトランプ大統領と、課金が足りないから勝てないと考える国防長官という組み合わせである。
つまり現在のアメリカ合衆国では、「ビデオゲーム的に戦争を捉える政権幹部」と、「個人的なトラウマを抱えながらもそれを言い出せない戦争懐疑主義者」が混在する状況が生まれている。やむにやまれぬ思いから陰謀論に傾いた情報専門家の分析を、実行部隊と意思決定者が無視するという最悪の組み合わせである。
つまり、トランプ大統領の暴走を越えて、我が国の安全保障政策の土台は大きく揺らいでいるのである。

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