9,100人と考えAIとも議論する、変化する国際情勢とあいも変わらずの日本の行方

トランプ大統領とプーチン大統領の会談が終わった。概ねロシアの一方的勝利と解釈されているが、トランプ大統領が領土について一方的に妥協しなかった点は評価されている。時事通信はノーベル平和賞を渇望するトランプ大統領が外交を混乱させていると書いてる。

ここで名誉を渇望するトランプ大統領がロシアとの間に和平ディールを結べずノーベル平和賞も取れないのかについて改めて考えてみたい。

トランプ大統領はひどいことばかりをしているからノーベル平和賞を取れないというのが最も簡単な答えだが、これは正確な記述とは言えない。

トランプ大統領は「良かれと思って行動している」がそれが欧米では「いいこと」だとみなされないというのが正確なところだ。欧米の価値観とトランプ大統領の価値観には深刻なギャップがある。

ヨーロッパは国同士で争っていた時代が長かった。特にドイツとイタリアはそもそも国家がまとまることさえできていなかった。最終的には国を巻き込んだ資源争奪戦になり世界中を巻き込んだ2度の戦争に突入する。この反省から生まれたのが今の国連体制とEUである。

主権国家体制の考え方には主に2つの軸がある。稼ぐ主体は自由に活動する中間層。国家通商インフラを作り中間層が共存共栄できるプラットフォームを作る。

日本は諸国が争う「戦国時代」が長かった、織田信長や豊臣秀吉が共通の通商インフラを整えようとしたが完全には成功しなかった。結果的に徳川家康が日本の平定に成功する。しかし日本では「市民」という考え方が生まれなかったうえに外部通商を通じて繁栄しようという考え方もなかった。このため、江戸時代の経済成長は中期にストップしてしまった。

ではトランプ大統領はどのような考え方を持っているのか。

トランプ氏の祖父のフレデリック・トランプは1869年にバイエルン王国に生まれた。1885年にアメリカ合衆国に移りレストランとホテル事業で成功している。トランプ家はこの「古いドイツ式」を守っている。一家の家長が家を繁栄させるという考え方である。

ところがこの「国を一つの家に例える」という考え方はそもそもヨーロッパを破綻寸前の戦争に巻き込んでいる。さらにアメリカ合衆国が持つアングロ・サクソン的な自由主義とも相い入れない。このようにトランプ大統領が「良かれ」と思ってやったことはすべて欧米的価値観によって否定されてしまうのだ。

だからトランプ大統領はおそらく悪いことをやっているつもりはない。単に国際コミュニティ(実際には欧米を指す)の価値観と合致していないだけである。

ではロシアはどうだろうか。

ヨーロッパは確かに共通インフラの整備に成功しつつある。しかしヨーロッパが成功するためには域内の国が新しいヨーロッパのスタンダードを受け入れなければならない。ロシアはこの枠組みからは排除されてきた。実際にはウクライナもこの枠組みに加わることができなかった。ウクライナはヨーロッパの中で特に汚職が蔓延した国として知られる。

ロシアはついにヨーロッパの一部になることを諦めて武力によって自前の「家」の再構築を始めた。EUの内部にも「右傾化」が見られるためEUは内側と外側から攻撃されていることになる。

今回のプーチン大統領とトランプ大統領の会談でトランプ大統領は一貫してプーチン大統領に理解を示したと言われている。これは当然だ。実は二人共新しいヨーロッパの価値観を理解できず、決してその一部になることはできないという共通点がある。

では日本はこの現実をどう理解すべきなのか。

日本もまた自前の共栄圏を作ろうとして当時の欧米列強と衝突している。日本人も「家長が家の繁栄を目指す」というドイツに似た考え方を持っていた。

今回日本の政治家たちはロシア・ウクライナ情勢についてなんらメッセージを発出していないが、この背景にはかなり根深いものがある。

ドイツはもともと「家長が家を繁栄させる」という囲い込み型の文化思考を持っていた。しかしシュタインマイヤー大統領はこの考え方を明確に否定している。そして過去と向き合う者は、未来を諦めることもないとのメッセージを発出した。

一方で国力が衰退しつつある日本は現状に向き合うことができずしたがって過去の日本は悪くなかったという惨めな自己弁護の気持ちに囚われている。石破総理が「反省」を口にすることにアレルギー性の嫌悪感を示し「反省なんかしたら世界が終わってしまう」と考える人も多いようだ。

また日本も「強い家長のもとで一家が繁栄する」というドイツと似た考え方を持っている。表向きは国際社会と協調して自由通商を守りたいのだろうが、実は国家主義への渇望も捨てきれずにいるのだ。

ただ現時点での議論を見ていると、日本人は現在置かれている状況を理解し国際社会の建設的な一角を占めることはできないだろうと結論付けざるを得ない。

最後になぜトランプ大統領が誕生したのかについて考える。仮にトランプ大統領がアメリカの価値観を体現していないのであればトランプ氏が大統領に選出されることなどなかったはずだ。

アメリカ合衆国は格差が拡大している。このため自由な通商を通じて結果的に繁栄を享受できるという考え方そのものが成り立たなくなっている。富裕層を優先し続けているため、資本主義というゲームから脱落した人たちは家を失い安い薬物に溺れる。こうした中で強いリーダーによる救済を求める人達が増えているのだろう。

こうした現象が起きているのはアメリカ合衆国だけではない。ドイツではAfDに対する支持が急拡大している。日本でも49歳以下では自民党支持は1桁に落ち込んでおり、参政党が野党では最も人気がある政党になった。参政党党首はAfD共同党首と会談し支持の拡大を訴えている。一方で高齢者は今までの自民党政治を立憲民主党が支えてくれることを望んでいるようだ。アメリカ合衆国は政治的内戦状態に突入し、ヨーロッパではEUが破綻しつつあるが、日本ではシルバー民主主義が「終わりの始まり」を迎えていると言える。

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