9,100人と考えAIとも議論する、変化する国際情勢とあいも変わらずの日本の行方

「最近のアメリカ合衆国は何か変じゃないか」と感じる人も増えているのではないか。その感覚は当たっている。

現在の米国外交が直面している最大の問題は、対外政策の中枢が、制度的意思決定プロセスから個人ネットワークへと移行しつつある点にある。

本来、米国の外交は国務省、国家安全保障会議、議会、同盟国との協調といった制度的枠組みによって支えられてきた。しかし近年、その中核は大きく変質している。外交交渉の主導権は、正式な官僚機構ではなく、ドナルド・トランプ大統領の私的関係に基づく非公式ネットワークに集中しつつある。

その象徴が、娘婿のジャレッド・クシュナー氏や実業家のスティーブ・ウィトコフ氏による、準私人型の外交交渉である。一方で、国務省や専門外交官の影響力は相対的に低下している。形式上は国務長官であるマルコ・ルビオ氏が存在するものの、実質的な意思決定権は限定的である。

この構造変化は、単なる人事の問題ではない。米国外交が「国家戦略」から「個人のディール」へと変質しつつあることを意味している。短期的には交渉の停滞回避や市場安定につながる場合もあるが、長期的には制度的信頼性、同盟ネットワーク、通貨信用といった米国の基盤資産を損なうリスクを内包している。

今週のアメリカ合衆国の株価はリスクオフモードだった。アメリカ合衆国とイランが核開発を巡り協議を行い、決裂すればホルムズ海峡封鎖というテールリスクが意識されていたからである。協議は成果が出ないまま継続となったため、リスクオフムードはいったんやや修正されている。

このように、そもそもトランプ大統領そのものが地政学リスクになっている。一方で、これまでアメリカの繁栄を支えてきた共和党と国務省の外交官などの存在感は低下している。

イランに対する核協議は目ぼしい成果を出さなかった。しかし「協議継続=全面衝突回避」という構図が成立し、投資家たちは胸を撫で下ろしている。ドルは上昇し、金の価格は下落した。ただし、投資家たちは以前からAIブームの持続性にも不安を感じており、神経質な状況はしばらく続きそうだ。

そもそも、なぜアメリカ合衆国は核協議を続けているのか。「イランの核兵器開発はアメリカ合衆国と同盟国にとって脅威である」という説明はもっともらしく聞こえる。しかし、協議の主導権を握っているのは、アメリカの“ベスト・アンド・ブライテスト”ではない。娘婿のジャレッド・クシュナー氏と、トランプ大統領と個人的に親しいスティーブ・ウィトコフ氏である。

今後、この2人はロシア・ウクライナ問題についても協議を行う予定だ。ザポリージャ原発の共同管理やウクライナの領土問題などが議題になるとされている。

Iran sees ‘window of opportunity’ after talks with US in Geneva(ABC News)

このように、トランプ大統領の外交政策は、クシュナー・ウィトコフ両氏を扇の要として展開されている。そして、その目的は「国際和平の私物化」である。

トランプ大統領は、連邦議会が出資する独立シンクタンクから職員を追い出したうえで、「ドナルド・J・トランプ平和研究所」と改称した。AP通信によると、現在この件をめぐる訴訟が進行中である。

さらに、国連安全保障理事会の常任理事国のような地位を「金で買いたい国家」を集め、「ボード・オブ・ピース」と呼ばれる“第二の国連”のような組織を構想し、その中心的役割を担おうとしている。アメリカ合衆国大統領の次の地位として、「私物化された国連」の中心人物を狙っていると考えれば、この動きは理解しやすい。

私物化を起点とするため、これまでのアメリカ合衆国の伝統的な同盟中心主義は脇に追いやられている。

第一に、すでに述べたように、「和平交渉」の主役は政府やホワイトハウスではなく、トランプ氏の私的関係によって支えられている。その結果、国務省の外交官たちは排除されている。

第二に、マルコ・ルビオ国務長官は、メッセージをトランプ氏に合わせる必要があり、かなり無理が生じている。ルビオ国務長官はミュンヘン安全保障会議で「アメリカはヨーロッパの子である」と発言した。

しかし、ヨーロッパが歓迎できたのはそこまでだった。トランプ大統領の主張する「アメリカ第一主義」を踏み越えることはできなかった。表面的には歓迎されたものの、その実態は冷笑だったと言ってよいだろう。

伝統的なエスタブリッシュメントが恐れているのは中国の台頭である。しかし、中途半端なルビオ国務長官のメッセージでは、ヨーロッパが中国との経済的結びつきを強める動きを阻止することは難しい。

さらにルビオ国務長官は、4月に総選挙を控えるハンガリーのヴィクトル・オルバン首相と会談し、「金融の盾」を提供すると申し出た。ハンガリーはロシアとの結びつきを弱めていない。

ヨーロッパ諸国には「ロシアとは距離を置け」と主張する一方で、ハンガリーだけは「トランプ大統領に親和的」という理由で例外扱いされている。

仮にトランプ大統領の一連の動きが、実際に国際和平に貢献するのであれば、一定の評価を与えてもよい。しかし、伝統的な外交官やエスタブリッシュメントを排除した結果、「協議は継続しているから破綻していない」というメッセージばかりが発信され、実質的な成果には結びついていない。

その一方で、「ディール」のたびに金融市場が歪められ、脱ドル化の動きが加速しかねない。加えて、些細な衝突がそのまま地域紛争に発展するリスクも高まりつつある。

さらに、アメリカ合衆国がこれまで蓄積してきた伝統的同盟主義は、かなり無惨に破壊され始めている。トランプ大統領の外交私物化はそのままアメリカ合衆国の地位喪失につながり、アメリカとの同盟に依存していた日本の地位低下につながる。

共和党が勢力を維持した場合、J・D・バンス・ルビオ組がトランプ氏の後継者になる可能性も指摘されている。しかし、ルビオ国務長官が今後3年間を「無傷」で過ごせるとは考えにくい。

本来であれば、この時点で「外交の私物化」がもたらすリスクを分析し、そこから複数のシナリオを抽出して論文風にまとめることも可能だろう。しかし、第二期トランプ政権の最初の一年を振り返る限り、その運営はあまりに「風まかせ」であり、将来予測を試みても、結局は占いに近いものにならざるを得ない。

不確実性の源泉が政策ではなく、大統領個人の判断や感情にある以上、通常の戦略分析は有効性を失う。制度や前例に基づく予測モデルが機能しない局面に、アメリカはすでに入りつつある。

ただし、日本が今後、憲法改正や安全保障政策を議論するにあたって、「アメリカ合衆国が極めて大きな外交・安全保障上の転換点に直面している」という認識を共有することは不可欠である。また高市早苗総理のトランプ大統領への接近は実はアメリカ合衆国への接近とは意味が異なっている。トランプ大統領の私益とアメリカ合衆国の国益は同一ではない。だが高市総理は茂木外務大臣と直接話ができないとされており、外務省に太いパイプもないので「とりあえず目の前のボタン」を押しまくるしかない。

「台湾有事を巡る発言で窮地に立った高市氏に、外務省は聞こえの良いことしか言わない事務次官以下、局長や審議官が官邸へ日参しています。わらにもすがりたい高市氏は耳を傾けていますが、日中関係の改善は外務省だけが動いても難しい。中国のみならずトランプ政権にパイプを持つ人物が、米中関係を見極めながら包括的に対応していかないといけない。まさに安倍政権が掲げたスローガンである“地球儀を俯瞰する外交”のセンスが求められる重大な局面で、高市氏は良いブレーンを持っていません」

「高市さんが官邸で心を許しているのは2人だけ」 ブレーン不足の“異常事態”の裏側(デイリー新潮)

アメリカ合衆国の変質は特定の政策変更という単純な問題ではない。米国という国家の「統治の在り方」に関わる問題である。この点を見誤れば、日本の対米戦略は根拠を失いかねない。とにかくアメリカにしがみつくためにボタンを押しまくっている場合ではないのだ。

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