トランプ大統領のAI規制の中身が具体的にわかってきた。Axiosによると当初は大胆な規制を導入したいと考えていたようだが法的根拠が曖昧なために内容は大幅に後退した。しかしそれでも、AIを巡る位置づけが自由で未開のフロンティアから文化戦争の戦線の一つに変化しつつあるということは理解できる。
トランプ大統領は様々な様々な勢力を抱えており今回の大統領令も極めて矛盾に満ちたものになっている。本来なら議会が話し合うべきだが、現在の議会は分断が進んでおり期待は持てそうにない。結果的に大統領の政治的意向が優先されることになる。
- Trump signs executive order targeting state AI laws(Axios)
- White House issues federal agency guidance against “woke” AI(Axios)
第一に州の独自規制を「商務省が摘発する」規定が盛り込まれている。この側面だけを見ると行き過ぎた「州独自の規制」からAI企業を守っているように見える。一方でAIに対して厳密な言論統制を求めている。WOKE(目覚めた)という言葉を大統領令の説明として使うぶんには許可されるがその他の文脈で使うことは許されないというのだ。つまり州の規制排除も統制もどちらも「民主党的な」価値観の払拭を求めている可能性が高いと読むことができるのだ。
あくまでもAxiosによるとだが、当初ホワイトハウスはこれをAI全体に適用しようとしたようとしていた。しかし法的根拠が曖昧なために政府調達のAIに限ることにした。
このように今回の規制は「中国に負けないように開発を加速させたいという加速主義者」と「行き過ぎた言論を押さえつけたいと考える保守」の価値観の間にあるギャップを吸収した内容になった。
この問題をChatGPTにきいてみたところ、MAGAは今回の大統領令に失望しているが、保守派と加速主義者の間には一種の協定が出来上がったと分析した。MAGAの反発は次の通り。ChatGPTは「MAGAはそもそもAIを理解していないために誤解が広がってる」と言っている。つまり「MAGAにはAIなど理解できないだろう」と言っていることになる。
- ビッグテックを守る政策=敵の味方になる
- 州権を侵害する政策=共和党の伝統理念に逆行
- AI加速で共同体が壊れる恐怖=草の根の不安
今回のバノン氏の反論はかなり興味深い。加速主義者と保守主義の間を取ろうとしたために曖昧な大統領令が生まれ、それを政権から外れたバノン氏が嫉妬しているように読める。
Ex-Trump adviser Steve Bannon, a major MAGA voice, told Axios in a text message that “David Sacks having face-planted twice on jamming AI Amnesty into must-pass legislation now completely misleads the President on preemption.”
Trump signs executive order targeting state AI laws(Axios)
アメリカ合衆国は様々な価値観を持った人たちの寄せ集めなので「そもそも意見の一致」が見られることはない。このためその場その場の協定を結び動的に動いてゆくしかないというのがChatGPTの見立てだ。
これは特に日本人がChatGPTと会話するときには重要な理解だ。
こうした状況を「不安定」ではないかと指摘すると「そもそもアメリカ合衆国とはそうした国家である」と出力される。むしろ日本は変化のない沈滞した国家であるという見通しを出力することも珍しくない。また連邦と州の間の対立も必ずしも悪いこととはみなされていない。むしろ地方自治の本旨という曖昧な協定の上に成り立っている日本の地方自治のほうが不自然という出力になる。
日本語が極めて堪能なだけで、まるで1990年代から2000年代のアメリカ人と話しているような感覚になる。発展とグローバリゼーションを肯定する人たちの意思がかなり強く反映されている。
今回明確にAIが文化闘争の戦線の一つになったことで、逆に「政府の統制に反対する」方向にバイアスがかかる可能性も考えられる。つまり民主党側に揺り戻すことも十分に考えられる。
私たちはAIのような科学フロンティアは政治と無関係だと考えるのだが、実はその最前線に位置していると言えるのかもしれない。

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