9,100人と考えAIとも議論する、変化する国際情勢とあいも変わらずの日本の行方


トランプ大統領が州レベルのAI規制を阻止する考えを表明

9〜13分

イイネと思ったら、Xでこの投稿をシェアしてください

トランプ大統領が連邦レベルでAIを規制する方針を打ち出した。一見すると「大統領がAIを規制するのでは?」と思えるのだが真逆になっている。つまり州が独自にAIを規制できないように州を規制しようとしているのだ。短期的にはアメリカのAI産業の発展に寄与するだろうが長期的には「矛盾の制度化」を通じた暴発懸念が出てくる。

Bloombergが「トランプ氏、AI規制「一つのルール」の大統領令に今週署名へ」という記事を出している。一読するとトランプ大統領がAI規制を打ち出すのではないかと思えるのだが全く真逆のニュースである。短期的にはアメリカのAIブームは過熱するだろうが、中長期的には「様々な爆弾」を抱え込むことになりそうだ。

AxiosがBehind the Curtain: Trump bets party, presidency on AIという記事を書いている。AIがアメリカ経済を牽引しアメリカを救うのだという物語をトランプ大統領が中間選挙の中核に据えようとしているという内容だ。トランプ大統領が物語を維持するためにはできるだけ規制は少なくしなければならない。つまり表面的にはトランプ大統領の姿勢は前回整理した「加速主義者」に近いと言えるだろう。

アメリカ合衆国とヨーロッパの間には深刻な亀裂が生じている。巨大テック企業の規制に熱心なヨーロッパと「自由な企業活動」を推進したいアメリカ合衆国の対立である。おそらく巨大AI企業は自由な企業活動ができるアメリカ合衆国に拠点を作りたいと考えるはずである。またサウジアラビアもアメリカ合衆国への投資に熱心だ。つまり、短期的に見ればアメリカ合衆国のテック企業は世界中からの資金を集め株高要因となる。日本の企業の中にも恩恵を受けている企業がある。

今回の上昇相場の「偏り」も重要です。6月中旬時点の3万8000円前後から10月末の5万2000円台まで、たった4カ月で日経平均は1万4000円も急上昇しましたが、その上昇分の半分をたった3銘柄が占めていました。ソフトバンクグループアドバンテスト東京エレクトロンの3社です。

AIバブル崩壊の先に見える「日経平均10万円超え」(日本経済新聞/エミン・ユルマズ)

しかしながら、トランプ大統領は「加速主義者」の考え方を理解しているわけではなく、単に選挙のためにこの物語が活用できると考えているに過ぎない。このため副作用も内部矛盾にも関心がない。だから、足元では様々な矛盾が生まれている。

データセンターは雇用を生まないため地元では大きな反対運動が起きることが多い。さらにAxiosが触れているように「トランプ大統領は巨大AI企業と組んで新しいエスタブリッシュメントになってしまった」と反発するスティーブ・バノン氏のようなMAGA論客も現れている。AIは単に「普通のアメリカ人から雇用を奪う脅威に過ぎない」と考える人も多いのだ。MAGA論客にとってテクノクラートやテクノラティックな政治家は「普通の市民と感覚を共有しない」敵という認定になる。

前回、議論を整理した安野貴博氏は日本ではほぼアウトサイダーだが、アメリカでは「意識高い系」としてポピュリストと対立する立ち位置となる。安野氏が「まだ日本では反発されていない」と言っていたのはこのためかもしれない。

そもそも大統領令ですべての州の法律を制限できるのだろうかという疑問が湧く。仮に連邦議会が何らかの規制法案を作れば州の規制を上書きすることができる可能性は高いそうだが、議会の中にもさまざまな意見がありまとまっていない。このため大統領が大統領令を使って「規制を制限する」規制を州に対してかけることができるようになっている。

しかし、規制の制限は、すでにアメリカ合衆国が抱え込んでいる矛盾を内部に閉じ込めてしまう役割を果たす。

さらに規制の不在が「人間が手に負えないAI」を生み出してしまった時、またはAIによって何らかの社会不安が惹起されると、これまで抱え込んでいた矛盾が逆回転し、連邦議会や州議会が一斉にAI規制を傾きかねない。

こうした逆流はすでにエプスタイン・ファイル問題や麻薬密輸戦の攻撃などで起きている。つまり何らかのきっかけで世論が傾くとトランプ政権の目算にも狂いが生じることとなるだろう。

特にトランプ大統領に強く反発する民主党州は「大統領令は無効だ」として独自の規制を検討し始めるかもしれない。すでにカリフォルニアのニューサム知事はトランプ大統領に対立姿勢を示している。しかしながらこれが「民主党連合」になると連邦との直接対決の構図ができてしまうため、様々な迂回路が検討されているようだ。

前回の分類でみると、複雑化するグローバル環境を制御・透明化するためのAIか、複雑さからうまれる曖昧さを利用して有権者の合理的判断能力を抑制するためにAIを取り込んでおくかという違いになる。つまり、文化闘争のなかにテックがガッツリと組み込まれている。つまりAIテクノロジーを理解することは政治の「本流理解(メインプロット)」理解に直結すると言える。

コンテンツのリクエストや誤字脱字の報告はこちらまで

イイネと思ったら、Xでこの投稿をシェアしてください


Comments

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です