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トランプ大統領がマジョリー・テイラー・グリーン議員を「破門」

8〜12分

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トランプ大統領がMAGAの急先鋒として知られているマジョリー・テイラー・グリーン下院議員への支持を撤回した。いわばSNS公開破門状である。きっかけになったのはエプスタインファイル問題でグリーン下院議員が情報公開請求に賛成したことだった。CNNなどのメディアはこの問題にMAGAの深刻な分裂という意味付けを与えたいようだが、今後どの程度の広がりを見せるのかは未知数だが、トランプ大統領の神話が崩れつつあることはわかる。

問題の背景にあるのは一部のアメリカ人が抱える剥奪感だ。日本でも参政党の躍進を示すために用いられているフレームワークである。鳥谷教授は「陰謀論は、何か大事なものが奪われるという感覚、あるいは他人に比べて自分が著しく損をしているという感覚から生まれてきます。これらの感覚を「剥奪感」と呼びます。」と定義している。

アメリカ合衆国では実際に格差が拡大し、上位のお金持ちたちが資産の多くを抱えている。しかしながら一般大衆はこの格差の拡大を正当に評価できるだけの政治的リテラシーを持たない。ただし薄っすらと「誰かに何かを盗まれているようだ」とは感じている。

トランプ大統領はこの構造を利用しわかりやすい対立構造を作ったうえで民主党と共和党という対決構造に移し替えた。物語の操作は実際に共和党を勝利させたが所詮は作り物に支えられた成功に過ぎない。

トランプ大統領は富裕層を「エスタブリッシュメント」と呼んだ。エスタブリッシュメントは狡猾であるばかりか性的にも乱れていると主張。そのために用いられたのがエプスタイン氏だ。著名人に少女を斡旋して関係を取り結んだとされている。そしてそのエスタブリッシュメントはすべて民主党だったと言っている。

ABCニュースの調べによるとエプスタイン氏の人脈はかなり広かったようだ。逮捕される直前には「トランプ氏の個人的な心理状態をよく知っている」と主張しロシアなどに外交顧問として自分を雇うように働きかけていた。そしてその後に逮捕され獄死している。これらはすべて第一次トランプ政権で起きている。

議会で多数派になれない民主党は2つの面からトランプ政権の政策を毀損させようとしている。トランプ大統領の政策は無効だと示し物語の構造にも揺さぶりをかけている。

民主党が主張するアフォーダビリティ(生活の余裕)問題はニュージャージー州とバージニア州の知事選で民主党に勝利をもたらした。また12月2日にはテネシー州第7選挙区で議員選挙が行われる。ここでもアフォーダビリティ問題が再び注目を集めれば民主党の戦略がある程度軌道に乗っていると示すことができる。

トランプ大統領は物価高対策として相互関税の一部を撤廃することにした。BBCはこれをトランプ政権の政策の転換とみなしている。トランプ大統領は物価高などマスコミが作り出したフェイクであると主張し続けているが、実際には物価高対策が中間選挙の成否を握る鍵になるということは認知しているのだろう。

さらに民主党はトランプ氏も実は「腐った富裕層の一部だった」という事実を暴こうとしている。つまりこれまでトランプ大統領の人気を支えてきた神話を崩そうとしている。これまでトランプ大統領はエスタブリッシュメントからアメリカを解放すると言っていたが実は彼らを守るためにエプスタインファイルを隠蔽してきたというのである。トランプ大統領は神話を守るために司法省に民主党の捜査を命じた。

トランプ大統領がマジョリー・テイラー・グリーン下院議員を「破門」したのは、おそらく造反した他の3名の議員たちやその他の議員たちに「自分に歯向かうとどうなるか」を見せようとしているからだろう。

一方で足元でアフォーダビリティ問題が広がると、議員たちはトランプ大統領に忠誠心を誓うか地元有権者の苛立ちに応えるかの二者択一を迫られることになるだろう。

結果的にMAGAと呼ばれる人たちがマジョリー・テイラー・グリーン下院議員に一定の支持を見せるのかあるいは彼女に石を投げ始めるのかが最大の注目ポイントということになる。今のところ目立った結論は出ていないが今後アメリカ合衆国の政治を観察するうえでは重要なテーマになりそうだ。