トランプ大統領のアジア歴訪が終わった。高市総理はトランプ大統領の腕にぶら下がり続けることで「ディールについて考える時間を与えない」作戦に出た。また韓国も純金の大勲章と王族の冠を贈り最大限にへつらっている。このことから今回の外交はトランプ大統領の大勝利のようにみえる。
しかしながら軍事の専門家は今回の歴訪をかなり冷静に見ていたようである。アメリカ合衆国の製造業がアジアに依存している実態が明らかになった。おそらく今総力戦をやれば物量では中国とロシアが勝ってしまう。中国やロシアが現状を冷静に見ていることは明らかだ。
トランプ大統領と習近平国家主席はフェンタニル・レアアース・ダイズについては話し合ったが台湾とNVIDIAのブラックウェル解禁については話さなかったそうだ。
トランプ大統領の時間は尽きかけている。中間選挙を控えて中国を刺激するのは難しくなるだろう。
トランプ大統領が一方的に作り出した米中貿易摩擦が緩和したことで株価が好調だ。「解放の日」のような問題を中間選挙前に作り出すとすでにインフレに疲れている支持者が離反する。
また、ダイズ農家はトランプ大統領に見放されたと考え始めているようだ。今はアメリカのダイズ農家にとって重要な時期だそうだ。すでに収穫したダイズの価格が決まる上に来年の作付けについて考え始める時期だからだ。
また、中国はレアアースの輸出規制を1年間発動しないことにした。これはいつでもレアアースを武器化しますよとアメリカ合衆国の喉元に刃を突きつけているのと同じ状態だ。アメリカの製造業が中国のレアアースに依存していることを中国はよくわかっている。
レアアースは精錬の過程で放射性物質を取り除く必要があるため環境規制の厳しいアメリカ合衆国では精錬が難しい。環境規制が緩やかな中国は徐々に細かなノウハウを蓄積し今では国外への持ち出しを制限しているそうだ。このため「アメリカ陣営」が一夜にして中国に対抗しうるサプライチェーンを構築できる見込みはない。
トランプ大統領の一連のチャレンジによって中国は改めてレアアースを独占的に握っていることの重要性を意識したことだろう。
しかし話はそこでは終わらない。
トランプ大統領は韓国から黄金の勲章とレプリカの王族の冠をもらい「褒美」として韓国に原子力潜水艦を供与することに決めた。心臓部はアメリカが技術を独占するためフィラデルフィアで作ることになっている。ところが実際に建造するのは韓国の造船業者のようだ。
トランプ氏は、米ペンシルベニア州フィラデルフィアの造船所で韓国は原潜を建造することになると述べ、それが米国の造船業界を後押しすると強調した。
トランプ氏、韓国の原子力潜水艦建造を承認 米フィラデルフィアで(REUTERS)
アメリカ合衆国はレーガン政権時代に脱製造業化を推進したため製造業の相対的地位が落ちてしまった。高い賃金が得られないため国内には熟練工が残っていない。また製造業は遅れた儲からない産業だとみなされる傾向がある。
さらに1920年に作られたジョーンズ法と呼ばれる法律も足を引っ張っている。ジョーンズ法は造船産業の熟練工を国内で保護するために作られた法律だそうだが「過保護」な法律だったため軍需造船業は他の造船業からは切り離されイノベーションが起こらなくなった。
つまり100年以上の時間をかけて保護主義が産業をダメにする教科書的な実例となっている。国内造船産業は衰退してしまい今では軍艦のメンテナンスがかなり遅れている。また国内の原子力潜水艦の多くが航行不能になっているという話も出ているようだ。
トランプ大統領はおそらく原子力潜水艦の建造も自分たちでやりたかったのだろうが設備は準備できても熟練工が準備できなかった。
トランプ大統領は日本製鉄にUSスチールへの投資を認めてやると言っているが、実際には日本の技術力に依存している。プライドの高さは却ってアメリカの製造業が崖っぷちの状況にあるという不都合な事実を際立たせる。
仮にアメリカの製造業が失った技術を外国から学びたいと考えるようになれば製造業の復活に役に立つだろうが、トランプ流のプライドの高さは労働者の学習意欲を阻害することになるだろう。権利意識ばかりが強く面倒な技術は学びたがらない。
アメリカ合衆国の製造業はファブレス化を推進し成功を収めたがその過程で熟練工と持ち運びができないノウハウという「魂」を失ってしまった。また安価な中国製のレアアースに過度に依存するようになり軍事・経済の鍵を中国に握られてしまってもいるのである。
た中国は中国でイノベーション・エンジンをアメリカに依存しており、両者は嫌でも協力を続ける必要がある「一蓮托生」の関係の陥っているということがわかる。
トランプ大統領の成功はアメリカ合衆国が直視することを避けてきたこの不都合な関係をあぶり出してしまったといえる。

“トランプ・習近平会談で明らかになったファブレス国家の悲劇” への1件のコメント
[…] トランプ・習近平会談で明らかになったファブレス国家の悲劇 […]