BBCがトランプ大統領のガザ和平についてかなり厳しい分析をしている。日本でもこの程度の論評が出ればいいのになどと考えつつこの記事を読んだ。
【解説】ガザ停戦にトランプ氏が決定的役割、しかしこれは和平への行程表ではない BBC国際編集長
BBCは今回の和平合意をトランプ大統領がその自尊心を満足させるための儀式であったと総括している。報告される側については詳細に決まったが、報告する側については殆ど決まっていないそうだ。実はCNNも同じような分析をしているが「それでも一旦停戦が実現したことは確かである」と評価を保留している。
【分析】中東を去ったトランプ大統領、到着時と同じくらい多くの疑問を残したまま(CNN)
この問題についてQuoraに書いたところ、トランプVSバイデンの図式に落とし込んで「バイデンが解決しなかった問題をトランプが解決したのだから、バイデン支持者はすべて負けを認めろ」というような極端なコメントが付いた。一旦党派性にとらわれると「オーバーコミットメント」が生じることになりいつまでも勝ち負けにこだわる人が出てきてしまうということがよく分かる。
しかしながら、この状態ではトランプとバイデンのどちらが正しいのかという議論に終始してしまい、次の疑問に到達しない。
- そもそもBBCが言うような恒久平和は実現するのだろうか?
というのがその疑問だ。
仮に恒久平和が実現するとすればトランプ大統領は努力が足りないのだから評価できないということになる。一方でそもそもそんなものは実現しないのだと考えると「トランプ大統領を褒めてそやして問題に貼り付けておく」しかない。
現実はかなり否定的なものだ。ネタニヤフ首相もハマスもトランプ大統領が主催する平和サミットに参加していない。ネタニヤフ首相は「祝日が近いから」という理由で参加を断っている。
おそらくイスラエルの人質たちはイスラエル軍の攻撃を防ぐ使い捨ての盾として利用されていたようだ。多くの遺体が返還されていない。数合わせのために人質ではない遺体が送りつけられている。混迷するガザにおいて遺体の「調達」はさほど難しくないだろう。
そもそも和平に協力するつもりがないネタニヤフ首相は人質の遺体が返還されていないことを理由に支援を拒んでおり「13日と14日にトラックが入ってこなかった」という情報もある。ガザでは停戦後にもなくなった人が出ている。
SNSの議論でさえも一度表明したポジションを崩すことができる「自己証明のための永遠の戦い」が起きるのだから、一度始まった命のやり取りが人類の叡智によって乗り越えられるはずだというBBCの前提が果たして本当に正しいものなのかという疑問も湧く。
今回の件で最も残酷だなと思ったのがバイデン前大統領のコメントだ。形の上ではトランプ大統領の成果を肯定的に評価しており「党派性に左右されない立派な人だ」と考えることはできる。
しかしながら注意深く読むと「トランプは結局私(バイデン大統領)の政策を引き継いで私がやりたかったことを実現した」と言っている。
「この合意に至る道のりはたやすいものではなかった。私の政権は人質の帰還やパレスチナの民間人の支援、戦闘終結に向けて休むことなく取り組んだ。新たな停戦の実現に尽力したトランプ大統領とそのチームを称賛する」と表明した。
バイデン氏、ガザ停戦を称賛 トランプ氏に賛辞(CNN)
実はトランプ大統領とバイデン大統領は対極にあるようでいて「虚栄」という意味では同じコインの裏と表でしかない可能性が高いのだ。
