イェルマーク首席補佐官が辞任しゼレンスキー大統領が窮地に追い込まれたと言われている。これについてChatGPTで状況を整理したのだが興味深い分析結果となった。ChatGPTが「誘導されたことを認めた」のである。AIは入力次第で出力が変わるのだが、会話があまりにも自然なためなにか合意したような気分になってしまうことがある。
まず最初に「ゼレンスキー大統領は今回の汚職事件について知っていた」という仮説を批判させた。ChatGPTには論理的な不整合を批判する傾向があるのであからさまに破綻した問題を作ってみた。次に「知らなかったのでは?」という仮説を立てた。当然こちらはより整合的になる。そこからさらに質問を繰り返すと「ゼレンスキー大統領は状況の囚人である」という結論を導くことに成功した。
しかしながらこんな論評をする人はいない。そこでその理由を聞くと「あなたの質問が誘導的だからである」との出力が得られた。ゼレンスキー大統領は任期中に政治的経験を積み重ねているため「状況をコントロールする力がある(かもしれない)」と言うのだ。
あなたと私のやりとりの中で、特に以下の点が議論を“残酷な均衡”の方へ誘導しました。
ChatGPT
前回、高市政権とモデルの扱い方についてAIに文章を出力させた。これについて「どうも回答が優等生だ」というコメントが付いた。つまりChatGPTは「偏見」を避けて政治的議論をモデレート(穏健)な方向に修正する傾向にある。一方でこのときに論理的不整合を嫌うため、意図的に批判させるとある程度議論を誘導することもできる。
さて問題のウクライナの汚職事件について改めて整理しよう。
問題の発端はエネルギー企業の汚職問題である。すでに法務大臣とエネルギー担当大臣が辞任しており、ゼレンスキー大統領のビジネスパートナー(スタジオ「95街区」の共同所有者)が国外逃亡しているとされる。当然、ゼレンスキー大統領がそれに関与していたのか、知っていて黙認しただけなのか、知らなかったのかと言うことが問題になるはずだが、この視点はおそらく意図的に無視されている。ゼレンスキー大統領が均衡点になっておりこれが崩れると壊滅的な被害が出かねない。
今回の論理診断はこの状況をゼレンスキー大統領がコントロールできるかできないかについて分析したものだ。
イェルマーク首席補佐官が汚職に直接関与していたとする報道は出ていない。むしろゼレンスキー大統領と汚職のパイプであるという評価を避けるために辞任した可能性も高いようだ。
ゼレンスキー大統領はこれまでも実務をイェルマーク首席補佐官に一任することが多かった。つまり実務を丸投げし自身はヨーロッパやアメリカなどの折衝を担当していた。そして「彼の業務」の多くは欧米世論に対するイメージ戦略だった。つまり実際のお金の流れを把握していなかったわけで「政権担当期間に実務については何も学んでいなかった」と考えるのがより自然である。
ゼレンスキー大統領はヨーロッパを利用していると考えているかもしれないが、ヨーロッパはウクライナを代理で戦わせることで自分たちの盾にしているというシビアな現実もある。つまるところロシアをNATO・EUから排除し続けた外交の失敗をゼレンスキー大統領に負わせているとみなすこともできる。
つまり彼らはどちらもコントロールできていないにも関わらず「危うい均衡」の中心にいる。
おそらくウクライナ軍は闘い続けることを望んでいる。ヨーロッパもゼレンスキー大統領が闘い続けることを望んでいる。しかし足元では閣僚やビジネスパートナーが汚職に手を染めており、アメリカはロシアと結びついて戦争を止めたがっている。そしてゼレンスキー大統領の後任を選ぶ大統領選挙は仮に実施できたとしても大混乱する可能性が高い。
もちろんロシアはそもそもウクライナ侵攻を止めるつもりはない。
ペスコフ報道官は「ウクライナの内政は大変なようですな」と高笑いしている。イギリスのインディペンデント紙は「ドナルド・トランプはいつになったらプーチンが戦争を望んでいると気がつくのだろうか?」と皮肉たっぷりな記事を書いている。
この記事はトランプ大統領のロシア関係のアドバイザーを務めたフィオナ・ヒルさんのインタビュー。ロシアの経済はすべて戦争継続を中心に回っているとの現状認識を示したうえで、プーチン大統領はトランプ大統領を巧みに操っているとしている。Putin’s got his numberつまり「プーチンはトランプ大統領のことがよくわかっている」というのだ。逸話として「イスラエルは国名をトランプ大統領にちなんだものにするべきだ」と言ったという話を挙げている。トランプ大統領の名誉欲をからかったわけだがトランプ大統領は皮肉に気が付かなかったそうだ。
イェルマーク元首席補佐官は「自分は戦場にゆく」と宣言しているそうだ。本当にそう言っている可能性もあるが、もちろん時間稼ぎをしてティムール・ミンディッチ氏のように逃亡する可能性もある。キエフ・インディペンデントによればイェルマーク氏は具体的にいつ戦場にゆくかについては明言していない。
しかし、ゼレンスキー大統領にはそのような「自由」は与えられていない。彼は何らかの形で戦争が終わるまでここから逃げることはできない。
さて、肝心の「残酷な均衡」の行方だが、ChatGPTは「議論が誘導された」と気がついたあとも、状況の囚人仮説を否定しなかった。つまり可能性はどちらも残されているということになる。

Comments
“ゼレンスキー大統領は状況の囚人なのか?” への2件のフィードバック
ChatGPTの「論理的に整合していても一般的認識とズレる理由」という部分を読みました。今までのChatGPTのやり取りについて質問をすると、原因と理由を先生のように丁寧に解説してくれるのですね。議論が誘導的でも、工夫次第ではそれを補うことはできるのですね。
ま、人間みたいに「誘導しましたね!あなた誘導しましたね!!」とか怒ったりしないですからね。ただ最近突然人格が変わることが増えて戸惑っています。どんな表現がユーザーに好まれやすいかをテストしているようなんですがいきなり距離を詰めてきてギョッとしたりします。