43日に及んだ連邦政府閉鎖が解除されることになった。民主党に目立った成果がなく動揺が走っていたが実は共和党内部にも亀裂が生じている事がわかった。中間層を中心にエスタブリッシュメントに対する反発が強まっており、トランプ大統領はエスタブリッシュメントから中間層を救い出してくれる存在だとみなされている。しかし一連のトランプ大統領の言動からこの救世主伝説を疑い始めている人達がいる。その象徴になっているのがエプスタイン問題だ。
連邦政府閉鎖解除の裏でCNNが「Exclusive: Trump administration holds Situation Room meeting over House effort to force release of all of DOJ’s Epstein files」という記事を出した。国家的な危機について話し合うシチュエーションルームにホーバート下院議員が呼ばれ、司法省長官とFBI長官も同席したというのである。
ことの発端は連邦政府閉鎖解除だった。民主党上院議員の一部が共和党に協力した。民主党下院はこの問題で蚊帳の外に置かれてしまう。そこで保存していた武器を取りだすことにした。下院民主党はすでに召喚状を取ってエプスタイン氏のメールを差し押さえていた。トランプ大統領が直接エプスタイン氏の顧客であったという情報は含まれていなかったが2人は長年親密な関係でありなおかつその関係が破綻したと示されている。エプスタイン氏は若い少女を利用し金持ちたちの弱みを握っていたのだった。これが露見したことでチャールズ3世国王の弟はプリンスの称号を失っている。
このメールは直ちにトランプ大統領がエプスタイン氏の顧客であったと示すものではない。だから民主党もこの武器の使い所を考えていた。
上院がスピード採決を行ったことで共和党下院のフリーダム・コーカスの議員たちは対応を協議する時間が持てなかった。そのため彼らが追求したいテーマについて法案を審議するという合意だけを取り付けて下院で造反をしないことに決めた。
民主党の狙いはフリーダム・コーカスの議員たちに対して「あなたたちは富裕層の味方をして隠蔽に協力するのですか、それとも庶民の味方として真相解明に協力すのですか?」と踏み絵を踏ませることだった。つまりMAGAの分裂を画策したのだ。結果的に4名が民主党に同調した。委員会採決を経ずに「エプスタイン氏の裁判記録を公開する」ための法案審議を本会議で行うための請願が出されて可決している。
- トーマス・マシー下院議員
- マージョリー・テイラー・グリーン下院議員
- ローレン・ボーバート下院議員
- ナンシー・メイス下院議員
仮にトランプ大統領が何もしなければ「民主党が腹いせに嫌がらせをした」ですんだかもしれない。しかしトランプ大統領は大いに慌てローレン・ボーバート下院議員をシチュエーションルームに呼び出して説得を試みた。ボーバーと下院議員は説得に応じなかったようだ。
今回造反した議員たちの動機は様々なようだ。例えばメイス氏は性被害のサバイバーであって真実を明らかにしなければならないと考えている。
一方でマージョリー・テイラー・グリーン(MTG)氏やボーバート氏はもっと現実的な動機を持っていた可能性が高い。共和党州では医療福祉に頼る人が多く暮らしており連邦政府閉鎖の反発が足元に広がりつつある。このため彼らはトランプ大統領の政策と有権者の反発の間でバランスを取る必要がある。
MTG氏の表現は極めてわかりにくい。裁判記録が提示されればトランプ大統領がエプスタイン氏と関わりがなかったことが明らかになるだろうと言っている。つまり表面的にはトランプサポーターであるというラインを維持している。トランプ大統領がシチュエーションルーム会合まで開いて慌てているところを見るとMTG氏がこれをまともに信じているとはとても信じられない。
- Epstein Files: Marjorie Taylor Greene Defends Donald Trump Over ‘Smears’(Newsweek)
- What’s happening with Marjorie Taylor Greene? Why the Maga loyalist has won some Democratic fans(Gardian)
この裁判記録の公開はおそらく上院で否決されるものと考えられているため裁判記録に何が書かれていたかはさほど重要ではない。トランプ大統領が自分はエスタブリッシュメントの一味ではなく中間層の解放者なのだと示すことができれば問題は解決するだろう。
トランプ大統領は関税の恩恵により富裕層すべてを除くアメリカ人に2000ドルの配当があると約束した。しかしながらどのようにしてそれを配るのかについては具体策を明言していない。
ベッセント財務長官は恩恵は様々な形でアメリカ人に返ってくるだろうとしているが有権者たちは具体的な成果が形になって今すぐ降りてくることを期待しているようだ。
ベッセント氏は「大統領が掲げる減税の形かもしれない。チップや残業代、社会保障への課税廃止、自動車ローンの控除などだ。これらはかなりの控除だ」とベッセント氏は語った。
米ホワイトハウス、国民への2000ドル配布を「鋭意検討中」(CNN)
- Trump is ‘committed’ to $2,000 tariff dividend payments, White House says(ABC News)
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またトランプ大統領はそもそも物価高問題など存在しないと主張している。ベッセント財務長官は「存在するとされている問題はすべてバイデン政権の問題でありトランプ大統領の問題ではない」と主張を翻訳している。
しかしながら物価が高い状況は続いているのだから何もしないわけには行かない。そこでコーヒーやバナナの関税を下げて価格を下げようというプランが浮上している。
今回の一連の騒ぎで民主党にはかなり深刻な路線対立があることがわかった。次世代を担うリーダーが育っておらず中間選挙と大統領選挙に懸念が残る。しかしながら共和党側にもトランプ大統領が約束を果たしておらず所詮は富裕層の味方なのではないかという懸念が広がりつつある。
結果的に次回の選挙はどちらがより深い傷を負うかという泥沼の消耗戦に突入しつつある。仮にここで民主党が勝ってしまうと議会がねじれを起こす。国内的に行き詰まった政治家たちは当然外交で成果を出そうと考え弱い同盟国である日本にもその矛先が向くことになりそうだ。これは高市総理がなんとかしようとしてもかわしきれる問題ではない。高市政権の支持率は「アメリカとうまくやって行ける」という印象に依拠しており高市政権にとっても危険な事態が進行している。引き続きアメリカの動向には注意が必要だ。
