本日は「日本の同盟の基礎となるアメリカ合衆国の精神的変質」について考えている。そこでバンス副大統領を軸に、思想的原点であるルネ・ジラールについて扱っている。しかし、日本人はそもそもキリスト教に馴染みがないため、この論考で扱っている問題を直感的に掴むのが難しいのではないかと感じる。
バンス副大統領はティールに影響を受けてカトリックに改宗した。すると人は「ティールはカトリックなのでは」と考えるだろう。実はそうではない。ティールは既存のキリスト教の外側にいて、独自の世界観を持っている。おそらく、バンスがカトリックに改宗したのはフランス人であるルネ・ジラールの影響なのだろう。
では、現在のカトリックが右傾化しているのかということになる。実はこれも間違っている。ローマ教皇庁はリベラルなアルゼンチン人であるフランシスコを教皇に選んだ。そして、アルゼンチンでフランシスコと活動した経験があるレオ14世が後継に選ばれた。レオ14世はフランシスコ路線の継承姿勢を明らかにしており、バンス副大統領の姿勢にも批判的なコメントを出すことがある。
さらに、ティールに見られる「終末論」は、むしろアメリカ化した福音派の影響を受けているように見える。バンス副大統領の「アメリカ・ファースト」も、主にアメリカの福音派に向けたアピールと考えるのが自然だろう。メキシコには大勢のカトリック信者がおり、メキシコからアメリカにやって来た移民たちもカトリック教徒であるが、彼らはむしろ「排除されるべき」存在だ。
そもそも、アカデミックな伝統に則って「定義を厳密にし、引用も明らかにしている」わけではないので、ルネ・ジラールの考えがどのようにティールに受け継がれ、バンス副大統領がそれをどう解釈しているのかは分からない。
ここで最も重要なのは、トランプ大統領は単なる破壊者という役割を期待されているだけで、理論的な裏打ちがないという点だ。トランプ大統領もそれに気がついており「バンス副大統領とは哲学が違う」と主張。ただしそれを深く気にしているようには思えない。
では「トランプ政権に理論的裏打ちがない」のかということになるのだが、実はトランプ大統領が意識しないところで「論理構築」が行われている可能性がある。
例えばTBSは「高市総理はきょう、『影のアメリカ大統領』とも呼ばれる起業家のピーター・ティール氏と面会し、AIなど先端技術分野について意見を交わしました」と伝えている。つまりティール氏は、アメリカ合衆国の政治に強い影響力を持っていますよ、と言っているわけだ。TBSがなぜこのような表現を選んだのかは必ずしも明らかではないが、トランプ大統領攻略法を伝授してくれるのではないかと期待したのかもしれない。
この「変形ルネ・ジラール論」が危険なのは、実は宗教そのものではなく、宗教とテックの融合にある。現在、トランプ大統領はイラン戦争に否定的な報道を行うメディアを敵視し、「停波」をほのめかす発言もしている。こうした圧力が強まれば、戦争報道そのものが抑制的になる可能性がある。報道自体は出るとしても、「なぜ今イランとの戦争なのか」という根本的な問いは語られなくなるかもしれない。
すると、その空白を埋めるようにポッドキャストが乱立する。乱立したポッドキャストはアルゴリズムによって情報バブルを形成し、特定の解釈や物語が増幅されていく。さらに、その情報をAIにフィードすれば、AIもまたそこから次の理論を生成する。そして生成された理論を読み取った人々が、それをあたかも確定的な事実であるかのように語り始める。
こうして、宗教的世界観、テクノロジー、そして情報アルゴリズムが相互に作用しながら、自己増殖的な思想空間が形成されていくのである。
今起きているのは宗教の復活ではなく、強迫観念(obsession)のアルゴリズム固定化なのかもしれない。
本日の議論は4部構成になっています。興味のある方はこちらもご覧ください。

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