アメリカ合衆国連邦政府がエプスタインファイルを公開し波紋が広がっている。これまではアメリカ合衆国のセレブの問題だったが、ついにイギリスの首相の退任問題に発展した。
マンデルソン卿の問題が取り沙汰されているとは聞いていたが、BBCを読むと「スターマー首相の進退問題」に発展しているという。スピーチ会場で異例の謝罪を行ったこともあり問題の深刻さが分かる。
- スターマー英首相、エプスティーン元被告の被害者らに謝罪 マンデルソン卿の任命めぐり辞任求める声も(BBC)
- 【解説】 スターマー首相、終わりの始まりなのか マンデルソン卿の問題で与党でも圧力高まる(BBC)
CNNによるとマンデルソン卿はトニー・ブレア政権で労働党を現代的に再生させた功績で一代貴族になった。一方でマキャベリ的なアプローチから闇の王子と呼ばれることも多かった。CNNによると度々スキャンダルで地位を追われその都度復活している。今回のエプスタインファイル公開で刑事捜査に直面し駐米大使を罷免させられた。
マンデルソン卿は過去にも同様の疑いを持たれていたが証拠不十分で起訴まではされていなかった。しかし今回は具体的なエプスタイン氏とのやり取りが白日のもとにさらされ資金の流れもわかってきた。結果的にスターマー首相はマンデルソン卿を駐米大使から罷免し、マンデルソン卿は貴族議員を退任した。
スターマー首相の判断はある意味正しかった。トランプ大統領のような「型破りな」人物に対応するためには「数々の汚れた経歴を持つ」マンデルソン卿のような人物がふさわしいと考えられたのだろう。清らかな水に魚は住めないというわけだ。
しかし、その実態は一般庶民の想像を絶するほど醜悪なものだった。流出した膨大なメールや写真からは、選民意識に浸るエリートたちが『自分たちは法を超越した存在である』と驕り高ぶる姿がまざまざと浮き彫りになっている。彼らにとっての『利益供与』は金銭に留まらず、エプスタインが用意した少女たちという、最も非道な形での『供応』までが含まれていた疑いが濃厚となっているのだ。
マンデルソン卿は新生労働党の象徴のような人物だが、それは一般のイギリス人の許容範囲を遥かに超えている。現在のイギリス経済は停滞するイギリスと金融市場として反映するロンドンという二極化構造になっている。つまり新生労働党は「ロンドン」の倫理観に対応し「その他のイギリス」の倫理観からはかけ離れていると考える人が出てくるかもしれない。
実は保守党も同じ経験をしている。「その他のイギリス」が選んだのはトラス氏だったが結果的にロンドンの金融市場は「トラスショック」を起こしアレルギー的な反応で「その他のイギリス」の決定を拒否した。結果的に選ばれたのはシティを代表するような経歴のスナク首相だったわけだが、彼は有権者の支持を失っている。つまり今回労働党が内部から動揺すれば同じ轍を踏みかねないという危機感があるのではないかと感じる。
BBCの報道はこの二重性をうまく表現している。つまり表向きはマンデルソン卿を批判しスターマー首相にも辞任要求が出ている。だが、スターマー首相が明日辞任するほど追い詰められているわけではない。彼らの辞任要求はどこか芝居がかかっているのである。
「その他のイギリス」は本音ではEUの官僚やシティの支配から逃れた自立した存在になりたい。しかしどうすれば自立できるのかという具体的な処方箋も見つからなければそれを指し示してくれるリーダーも現れない。これはどこか日本の現状に重なるものがある。
ロンドンの成功の影で見えにくくなってはいるが実はイギリスでも失われた30年が進行しているのかもしれないとさえ思えてくる。

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