「トランプ大統領がウクライナに領土を諦めるように迫った!」とされたウクライナ和平交渉の内幕が徐々にわかってきた。浮かび上がったのがホワイトハウスの情報管理の杜撰さと内部の一貫性のなさだ。ウィトコフ特使とロシアの電話会談の内容がリークされている。
トランプ政権のウィトコフ特使とロシア大統領府の交渉に懸念の声が上がっている。ウィトコフ氏はロシアに対して「トランプ大統領を喜ばせてくれればゴーサインが出る」とアドバイスをしていた。和平交渉や関税交渉などを通じてトランプ大統領の歓心を買いたい人々が競い合っていることがわかる。
しかし性急な姿勢は民主党・共和党の超党派の疑念を招いた。彼らはトランプ大統領がプーチン大統領を喜ばせようと懸命になっていると疑っている。超党派はルビオ国務長官に電話をして懸念を伝え、共和党の重鎮もSNSdせディールに反対してみせた。
この問題でトランプ大統領とルビオ国務長官がどのような役割を担ったのかがよくわかっていない。ルビオ国務長官は「かなりあとになるまで知らされていなかった」とされている。ルビオ国務長官はとにかく議論から距離を置かざるを得なかった。結果的にヨーロッパが和平ディールを押し返しさらなる「調整」が進められている。
またトランプ大統領も土壇場になって知らされたと報道されていた。
しかしAXIOSは「トランプ大統領もルビオ国務長官も定期的に連絡を受けていたのでは」と伝えている。
報道の食い違いをできるだけ合理的に伝えようと考えると次のような仮説を置かざるを得ない。
- 共和党重鎮が怒り出したことでトランプ大統領とルビオ国務長官は議論から逃げた。
- トランプ大統領が自分の指導力を誇示するために「土壇場で素早い決断をした」と演出したかったが実はそうではなかった。
- トランプ大統領もルビオ国務長官も報告を受けていたが、中途半端にしか内容を理解していなかった。記者会見にしか興味がないトランプ大統領には十分にその可能性がある。
- 高官の間で「伝言ゲーム」が行われており情報が錯綜している。あるいはライバルに知られたくないためにお互いが嘘ついている。
- エスタブリッシュメントが交渉から排除されており情報を統制しようとしても制御しきれなくなっている。
そもそも大統領がすべてを把握しているわけではない上に、高官たちもお互いに競い合う関係にあるのだから、これらの可能性はお互いに背反しない。シグナルゲート事件からわかるように、ウィトコフ氏がどの程度堅牢な通信手段を使っていたかもよくわからない。
結果的に「ディール」は結ばれていない。トランプ大統領は自身の演出プランに固執しており今でも最終のディールの前だけに出てくるという姿勢を変えていないようだ。
ホワイトハウスは、ウクライナとの2国間会談の可能性についてコメントしていない。ただし、トランプ氏はソーシャルメディアで、ゼレンスキー大統領とプーチン大統領に近く会うことを期待しているものの、「それはこの戦争を終わらせる合意が決定しているか、最終段階にある時だけだ」と書いた(編注:太字は全て大文字)。
ウクライナ、和平案めぐり米国と「理解」達したと トランプ氏は特使がプーチン氏と会う予定と発表(BBC)
プーチン大統領はこうしたドタバタブリを冷笑しつつ「話は聞いてやってもいいが、そもそも案もできていないのに評価するのは失礼だろう」と余裕の構えである。
ウクライナ和平案最終版まだない、協議に応じる用意-プーチン氏(Bloomberg)
結局アメリカ国内とヨーロッパが振り回されただけで何の成果も出なかったということになるのかもしれない。
またこの一件から日本政府はホワイトハウスの状況を理解しつつ自分たちの情報発信を調整する必要があるとわかる。しかし高市総理は釈明と否定に終止しており戦略的な対応はできていないようだ。
