アルゼンチンで中間選挙が行われミレイ氏の政党が躍進した。今後ミレイ大統領は既得権打破のために「大ナタ(厳密にはチェーンソー)」を振るうことができる。トランプ政権があからさまな財政支援をして選挙を支えており民主主義の観点からは問題だという気がするが、どうやら問題はそこではないようである。
アルゼンチンの事例は日本が構造改革を放置するとどんな悲惨な未来が待っているのかを示すためによく引用される。実際に通貨ペソは下落し代替通貨として広く使われていた暗号資産も信頼を失いつつある。
ミレイ大統領は新自由主義を信奉するいわば南米のトランプのような存在だ。アルゼンチンの政治は長年左派ポピュリズムに支配されており財政に大きな懸念があった。ミレイ大統領の修正自体は必ずしも悪いことではないが、急進的で乱暴な政策は大きな混乱を引き起こしている。
ミレイ大統領は将来はペソを廃止し米ドルをアルゼンチの通貨にすると宣言してきた。すでにアルゼンチンペソは国民から信頼されておらず企業も個人も米ドルを持ちたがる。アルゼンチンの歴代政権は企業や個人が米ドルを持つことを厳しく規制してきたために仕方がなく暗号通貨で資産形成をする人もいた。給料としてペソをもらってもすぐに価値が落ちてしまうため、流動性のある代替資産が必要とされていたのだ。
ミレイ大統領は米ドル規制を撤廃し国民から歓迎された。しかし国民がペソを信頼したわけではなく手持ちのペソをこぞって米ドルに替え始めた。
結果的にミレイ大統領は手持ちのドルをペソに変えて通貨防衛に取り組まざるを得なくなっている。結果的に外貨準備が枯渇寸前。大統領は緊縮財政を約束しIMFから資金援助を取り付ける。しかしこれだけでは全く足りそうにない。
そこで救いの手を差し伸べたのがアメリカ合衆国だった。
隣国ブラジルに反米色が強い左派政権ができたこともありトランプ大統領はなんとしてでもアルゼンチンの政権を守りたい。そのために選挙前に「ミレイ政権が選挙で勝つことが前提」として信用枠の供与を申し出た。連邦政府閉鎖が続くアメリカ合衆国では外国支援に対する風当たりが強く、ベッセント財務長官は「これは信用枠の提供であって資金協力ではない」と説明している。
露骨な選挙介入であり嫌悪感を感じる。しかし、どうやら問題はそこではなさそうだ。
2025年のはじめにミレイ大統領がほぼ無名のムームコイン($LIBRA)のエンドースを行った。ミームコインはたちまち暴騰するのだが大統領は投稿を取り下げ、ミームコインは暴落した。
世界有数の仮想通貨取引所である米コインベースによれば、アルゼンチンはデジタル資産を受け入れる好条件が整っている。総人口4500万人のうち、約500万人が日常的にデジタル資産を利用している。
アングル:通貨危機のアルゼンチン、大統領の「詐欺疑惑」で仮想通貨も信頼がた落ち(REUTERS)
ミレイ大統領の経済財政政策はかなりでたらめなもの。さらにそもそも自国通貨が自国民にも信頼されていないという事情がある。こうなるとアメリカ合衆国が信用供与してもそれがペソ流出というトレンドを逆転させることはできないだろう。何らかの理由でアメリカ合衆国が支援を凍結すればそれをきっかけにアルゼンチン経済はたちまち大混乱しかねないという状況に陥っている。
ミレイ大統領はドルを自国通貨にすると言っているがペソを支えるために手持ちのドルを使い果たしてしまった。さらに庶民が代替通貨として期待していた暗号通貨の信頼性にも疑問符がついている。
構造改革を先送りし財政ファイナンスとポピュリズムに頼ってきた国の将来はこれほど恐ろしいものだが、日本でもドル円相場の急激な悪化を背景に資産を米ドルに替えて株式に変える動きがじわじわと広がっている。また基軸食料であるコメの価格も高止まりしているが「強い国」にこだわりを持つ高市総理の米価についての関心はさほど高くなさそうだ。

“アルゼンチンでミレイ氏の政党が躍進” への1件のコメント
[…] アルゼンチンでミレイ氏の政党が躍進 […]