アメリカ連邦政府閉鎖問題に進展があった。今後上院で審議が進み下院に送致される。そもそもなぜ連邦政府が閉鎖されたのか、なぜ今のタイミングで解除が進んでいるのかを分析したうえで、今後の展開を予想する。結論だけを書くと中間選挙まで予算を人質にした議会闘争は続きそうだ。
- まだ連邦政府閉鎖のめどがたった訳ではない
- 民主党・共和党の穏健派が落とし所を求めていた
- 予算が通ってもそれは1月30日までの暫定予算(CR)
今回参考にした記事は次の2つ。日本語ではBBCのまとめが相変わらずわかりやすい。
- Senate votes to move forward with deal to end government shutdown(Axios)
- Enough Senate Democrats vote with Republicans to break government shutdown impasse(ABC News)
- 米上院、政府閉鎖の終結に向け動議を可決 事態打開へ前進(BBC)
アメリカ合衆国では民主党と共和党の間で予算を人質にして相手が実現したい政策を妨害し合う「人質政治」が蔓延している。硬直化した二大政党制のもとで徐々に慢性病のように進展した。今回はトランプ政権が民主党の要求に一切妥協しない姿勢を見せており連邦政府閉鎖に追い込まれた。
共和党は連邦政府閉鎖で福祉予算が滞れば民主党のほうが失うものが多いと考えていた。しかしニューヨーク市長選挙、ニュージャージー州知事選挙、バージニア州知事選挙の結果は民主党の圧勝だったためトランプ政権と共和党穏健派は戦略変更を余儀なくされていた。一方ニューヨーク市長選では民主党の中にいる急進派(民主社会主義者)が勝利した。民主党の中にいる穏健なブルー・ドッグ連合は民主党の左傾化に危機感を強めているものと考えられている。
結果的に上院民主党が折れる形でフィリバスターを撤回することが決まった。共和党のリーダーであるトゥーン議員は速やかな投票を求めているが議員たちが応じるかは未知数。今後一週間程度の審議を経て法案が下院に送られる。下院がこれを処理して初めて連邦政府閉鎖が解除になる。
今回の闘争で負けたのは民主党だと理解されている。彼らが勝ち取ったのはは医療費負担適正化法の補助金延長に投票だけだった。今後、共和党の政策の拙さを訴えて中間選挙を有利に運びたいと考えているようだが、党内の急進派や下院からは妥協を非難する声が上がっているようだ。
今回の予算で問題になったのはSNAPと呼ばれる食料支援プログラムだったが、主戦場は中間層の奪還である。民主党は暮らしの余裕(アフォーダビリティ)の回復を訴えてゆく考え。もともとバイデン大統領の政策を批判するためにトランプ大統領が使っていた用語だったが、今や民主党が主に用いるスローガンになっている。つまり根幹にある生活への不満が解消されていないということがわかる。
「アフォーダビリティー」が一躍政治的争点に-米選挙で民主が躍進(Bloomberg)
つまり「普通のアメリカ人」の生活の不満が解消されていないからこそ敵を設定して徹底抗戦することが議員たちの主な仕事になっている。これこそが人質政治の根本原因だ。今回の予算は軍事建設、退役軍人、農務省の3つの通年予算とその他の暫定予算(CR)を通す内容。Axiosはここに立法府の通年予算を加えている。
下院のマイク・ジョンソン議長が議員たちにワシントンDCに戻るように呼びかけているが、ジョンソン議長が下院共和党の全面支援を得られる保証はない。上院では小さな政府原理主義者とみなされているランド・ポール議員が儀式的に反対票を投じたのみだった。しかしAxiosによると法案にはトランプ大統領が推進してきた人員削減を撤回する条文が含まれており下院共和党にいるフリーダム・コーカスのメンバーが反対する可能性も残されている。
フリーダム・コーカスは議長選挙を妨害し自分たちの活躍の場を作った。予算審議はメディアも注目する花形で2年に一度選挙を行う必要がある議員たちにとっては大きな見せ場である。
結果的に
- 政治が成果を出すことができていない
- 選挙のたびに過激な言動で有権者を惹きつける必要がある
ことになる。要は議会がバトルフィールド化しているのである。
さらに中間選挙で下院の多数派を民主党が握ることになればそもそも殆どの法案が上院に上がってくることがなくなる。こうしたねじれが生じると議会も大統領も外交などを通じて国民にアピールする必要が出てくる。過去の事例ではそのたびに対日要求が強まっており、日本にも直接的な影響が出てくるだろう。
