イアン・ブレマーの10大リスクのトップは「アメリカ政治革命」だった。これまでは単なるリスクだったがベネズエラの侵攻によりこれが可能性ではなく対処すべき問題に格上げされている。
ユーラシアグルーブは次のように書いている。
地政学的に不確実な時代。しかし当初予想されていたような米中対立や第二の冷戦は起こらなかった。プーチン大統領はヨーロッパでの戦争を起こしたがアメリカとの関係は良好だ。その一方でアメリカ合衆国は自らが築き上げた世界秩序を自ら破壊しつつある。世界最強の国が今政治革命の渦中にある。
そもそものきっかけは2大政党制の膠着だった。民主党は軍事費を人質に取り共和党は医療福祉を人質に取っていた。これは日本では安倍政権下の「集団的自衛権一部行使容認」につながっている。結果的に大統領権限が拡大。その結果として生まれたのがトランプ大統領であり彼がアメリカを壊したわけではない。
トランプ大統領は強力な治安維持(州兵の覇権)、関税による税収増の穴埋め、減税、経済対策を打ち出した。しかしどれも複雑さを扱えずに頓挫している。アメリカ国民は今「アフォーダビリティ問題」で不満をつのらせている。
アメリカ合衆国憲法には深刻なバグがあった。もともとアメリカ人は外からの脅威を懸念しており防衛のために大統領に大きな権限を与えている。大統領はこれを拡大解釈し「麻薬汚染からアメリカを防衛するのだ」と宣言。ベネズエラ大統領をニューヨークの法廷に引き出すことに成功した。この成功こそがアメリカ合衆国の行き詰まりを示している。
ここでトランプ大統領は「アメリカはベネズエラの石油を自分たちのものにする」と宣言してしまう。またベネズエラの運営コストを考えてマドゥロ政権を居抜きで利用しようとした。結果的にトランプ大統領の根拠が崩壊する。
- アメリカ合衆国は今回の侵攻を警察権の行使と考えている。少なくともルビオ国務長官はそう説明している。
- 大統領を連れ出すと主権国家の侵害になってしまうので、選挙が無効だとした。つまり彼は単なる麻薬密輸組織のボスであり主権の侵害には当たらないと言っているのだ。
- すると野党候補が正当な大統領ということになる。
- しかしトランプ大統領はマチャド氏はベネズエラ人から尊敬されていないと言ってしまった。
- フランスのマクロン大統領はではゴンザレス氏(マチャド氏の代わりに大統領候補になった)が事態収拾の主役になるべきと宣言した。
- ベネズエラの暫定大統領はアメリカと対話するといっているが同時にアメリカと協力したものを逮捕すると言っている。
今回、意外だったのがハンガリーを除くヨーロッパがかなり強く反発している点だ。アメリカ合衆国を名指しすることは避けつつも国際法を遵守するように迫っている。これはヨーロッパにとって「明日は我が身」だからだ。
今回の成功に気を良くしたトランプ大統領はコロンビアとキューバを脅迫している。それだけでなくグリーンランドの統治にも意欲を示した。グリーンランドは地理的には北米の一部だがデンマークが統治している。そしてデンマークはNATO加盟国だ。
国内政治が行き詰まっているフランスだが、イギリスが抜けた後EUで唯一の国連安保理常任理事国という地位になった。ドイツはEUを代表できない。またEUは主権国家ではないので国連に議席がない。
つまり、アメリカ合衆国が外交的にヨーロッパの支援を受けて今回の軍事作戦を正当化する望みはない。それどころか同盟国の一角を「併合」する動きにヨーロッパは(イギリスも含め)冷ややかな対応を取っている。BBCはトランプ氏の行動は権威主義国家の前例になるだろうと分析している。ヨーロッパにとってアメリカはもはや脅威になったといううことだ。
エマニュエル・トッド氏の「自壊するアメリカ合衆国」について「あれはエマニュエル・トッド氏のアメリカ憎しによる感情的な発言だ」と主張する人々がいた。しかし実際にトランプ大統領はアメリカを内部から破壊しつつある。多くの人がそんなことは予想していなかった。
今回のベネズエラへの侵攻が「戦略的」なものであればよかったのだが、有権者の支持を得る見込みのある唯一の選択肢だったと考えると、成功は次の軍事行動のインセンティブになり、それが破綻するまで続く可能性が高いということになる。
そしてその最初の一歩をトランプ大統領は実際に選択してしまったのだ。後は行き着くところまで行くしかない。

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