前回までの投稿で連邦政府閉鎖解除の審議は長引くのではないかと書いていたが予想外に速いペースで解除に向けた動きが進行している。このエントリーではなぜ予想が外れたのかを考察してゆきたい。
当初、連邦議会には実に様々な人がいて意見集約が進まないのではないかと考えてきた。ところが上院の審議はスムーズに進み下院の審議も12日に行われるのではないかと考えられているようだ。
まず上院の側の事情を分析する。民主党の中には「激戦州」選出の議員たちがいる。彼らは左派ではなく中道で民主社会主義の台頭を恐れているようだ。民主党が過激化すると中道派の人たちが離反してしまう。上院民主党にはこうした人が8名いた。
上院共和党と民主党中道派はまた複雑な妥協によってフリーダム・コーカスに造反の理由を与えたくなかった。フリーダム・コーカスが合意形成をするまでには一定の時間がかかる。彼らに付け入る隙を与えないためにスピード採決に踏み切ったものと考えられている。
結果的にこの戦略が成功した。下院のフリーダム・コーカスは今回「条件付き」で協力を申し出ている。日本語には言及がないがChatGPTによるとフリーダム・コーカスは国境警備法案と再出抑制策の別途採決を求めているという。可決に向けた協力を取り付けた訳ではないために政策が実現するかはわからない。
つまり各会派は問題解決という成果を求めているのではない。政策実現に向けて頑張っている姿をアピールしたいだけなのだ。結果的に政策が実現できなければ「皆さんの応援が足りないからもっと応援してください」と主張することができる。
一方で下院民主党のイライラメーターは大きく上がっている。その矛先は今やチャック・シューマー上院院内総務に向けられている。ハキーム・ジェフリーズ下院院内総務はシューマー氏を支援し続けているがニューヨーク市地域選出のジェフリーズ氏もまた社会民主党の台頭に怯えているようだ。
- Schumer faces mounting Dem calls to resign as leader(AXIOS)
- Here’s why Congressional Democrats are furious over the shutdown deal(AXIOS)
スター不在の影響もあり、ニューヨーク市長選挙、バージニア・ニュージャージー州知事選挙で勝ったにも関わらずなぜか民主党内部に大きな亀裂が入り自滅しかねないという極めて理不尽な結果が生まれた。
トランプ大統領は相変わらずSNSで意味不明のつぶやきを続けている。管制官に職場に戻るように呼びかけているが、彼らの職業意識に訴えるのではなく「無断欠勤を続ければ減給になるが戻ってきたら10000ドルのボーナスをやる」としているそうだ。もちろん予算のアテがあって発言しているわけではなく、あくまでも部会者という自己認識があるのだろう。しかしトランプ大統領の支持者たちはトランプ大統領の無責任ぶりに憤ることはない。民主党が動揺していることに対して「ああ気持ちがいい」と感じているようだ。
SNSは継続的な刺激を提供する。目の前にある問題が解决しなくてもそのばその場で快楽が得られればそれで良し。アメリカ合衆国の政治はそのような状況に陥りつつあるようだ。
SNS政治は「げに恐ろしき」という気がする。
政治家たちはSNSを通じて政治を見ている人たちに絶え間なき闘争のストーリーを提供する必要がある。有権者は自分たちを政治の受益者とは考えなくなり政治ストーリの消費者として政治闘争を煽る側に加わっているが、これをうんざりした様子で見ている人も多いことだろう。
アメリカ合衆国の政治はテレビの影響で大きく変わった。きっかけはケネディVSニクソンのテレビ討論会だったと言われる。結果的にカメラ越しの見た目と弁舌が爽やかな政治家が求められるようになった。しかしながらSNSの台頭によって生まれたトランプ大統領はこの構図を大きく変えた。見た目の爽やかさは偽善だと感じられるようになり、代わりにSNSを通じた絶え間ない闘争が人々に強い快楽を与えている。この流れに乗って短期間で人気を得たのがニューヨーク市長候補として短い時間で注目を集めるようになったマムダニ氏だった。
スター不在の民主党は果たしてSNS時代にふさわしい新しいスターを見つけることができるのか、そしてそれはアメリカの政治にとって良いことなのか、日本にも同じような現象が起きるのかなど、さまざまな問題は解决しないまま残されている。
