まもなくアメリカ合衆国政府が閉鎖される。今回異様なのがトランプ大統領と民主党が連邦政府職員の給与小切手を人質にとって激しい選挙戦を展開しているという点だ。しかしながら政治批判よりも「今回の閉鎖でどんな影響が出るのか」に報道の焦点が移ってきている。
ABCニュースによると政権と民主と幹部は盛んに罵り合いを続けており妥協が成立する見込みはなさそうだ。
トランプ大統領と共和党は「大きくて美しい1つの法案」を通した。ここで予算問題は解決したものと思い込んでいたのだが、実際には12の法案を通す必要があるようだ。つまり日本のように本予算を可決するという概念がないことになる。
米政府は、議会が毎年可決し大統領が署名する12本の歳出法案に基づいて運営されている。新会計年度の開始日である10月1日までに12本すべてが成立しない場合、議会と大統領は暫定的に現行水準の歳出を延長する短期つなぎ予算で政府機能を維持する。今回、現時点で成立はゼロ本だ。
米政府でまた閉鎖危機、常態化の理由と社会的インパクト-QuickTake(Bloomberg)
アメリカ合衆国の期末は9月30日。また予算を通すためには上院で6割の賛成が必要。予算じたいは過半数で通すことができるが「議事妨害=フィリバスター」を打破するために必要な数字なのだという。これは従来共和党と民主党が協力しなければ予算を通せないようにするための紳士協定のようなものらしい。
下院からは民主党案と共和党案の両方が出ているが、上院はどちらも拒否。下院は現在休会中で上院もギリギリまで議会を明けなかった。
もちろん上院で規則を変えることはできるそうだが、共和党の内部にも予算案を快く思っていない人達がいる。トランプ大統領の報復を恐れ表立って反対はできないため民主党の抵抗に期待している。民主党も徹底抗戦を通じて選挙戦を有利に進めたいという思惑がある。
トランプ大統領の異質な性格も気になる。連邦政府職員を「従業員」のようにしか思っていない。このため民主党が抵抗を続ければ連邦政府職員を解雇するぞと脅しており実際に解雇に踏み切る可能性もある。つまり抵抗のために脅しているのか本気で政府職員を解雇したがっているのかがよくわからない。
この傾向がよくわかる出来事があった。ヘグセス国防長官が将軍たちを本国に呼びつけ「新しい基準」を示した。将軍たちにも体力テストを実施し身なりも整えさせるそうだ。トランプ大統領は今後アメリカの軍人は国内の治安維持に責任を持つべきだと主張した。
トランプ大統領の経営方針はラスベガスのホテル経営に似ている。そもそもブランドが付いた土地がありイメージ戦略でブランドを高めてゆく。従業員は単なるそのための道具に過ぎない。嫌なら辞めてもらっても構わない。なぜならば代わりはいくらでもいるからだ。
ヘグセス国防長官は強面マネージャーと言ったところだ。しかしラスベガスのホテルと違って軍隊は「暴力装置」であるとともに専門家集団でもある。イエスマンだけが集まった軍隊がいざとなったときに機能する保証はない。
またABCニュースによると連邦政府が閉鎖された場合には帰国の旅費は「一旦自己負担」で再開が決まった後に払い戻されることになる。ビデオ通話で済む話のために呼び出されて旅費を自己負担で出せと言われている。将軍たちは「やっていられない」と考えるだろう。
さらにトランプ大統領は拍手が足りないことに気がつき「気に入らないなら職位を下げてもいいんだよ」と脅したそうだ。
What he’s saying: After taking the stage, Trump noted the lack of applause. “If you don’t like what I’m saying you can leave the room, of course there goes your rank, there goes your future,” he said, to laughter from the assembled military leaders.
Trump says he’ll fire generals “on the spot” if he dislikes them(Axios)
おそらく軍人だけでなく他の従業員たちにも同じ態度で接しているのであろう。
いずれにせよ連邦政府の閉鎖が現実のものになったことで、アメリカ合衆国ではどのような業務にどれくらいの影響が出るのかについて盛んに報道が出ている。
アメリカ株に投資をしている人は雇用統計が出ないかもしれない可能性に気をつけたほうがよさそうだ。公式統計が出なくなると非公式の統計に頼らざるを得なくなり思わぬニュースによって市場が撹乱される可能性が出くる。手始めに労働統計に影響が出そうだ。
またビザの発給などにも影響が出るかもしれない。
トランプ大統領はすべて妥協をしない民主党のせいだと主張し続けており一切の妥協を拒んでいる。バンス副大統領も「民主党が正しいことをしなかったせい」で連邦政府が閉鎖されると言っている。
連邦政府閉鎖が短期間で終われば民主党も「抵抗を示し得るものを得た」ことになるが、過去の事例では共和党の抵抗に国民の反発が高まったこともあるという。
なお連邦政府の閉鎖の最長記録は第位置次トランプ政権の35日だったそうである。
